あーあ……お母さんもお父さんも今日もお仕事か

べ、別に怖くもなんともないけど……っ

え、な、何!?

あー、扉が閉まった音ですね……

べ、別に怖くないけど、怖くないけど!

怖いんですね……

こ、怖くない、私は強い子、強い子だもん

ひ、一人でお留守番できるもん

とかいって、結局私を抱きしめる……

まあ、いつも通りですけど

怖くない……怖く……

怖くな……

ZZZ

あ、寝ちゃいました……

全く、あんなに怖がっていたのに……

可愛い寝顔です

ん……お母さん……

……

おやすみなさい
優里奈ちゃん

人形を抱きしめながら眠りにつく少女を、その人形の魂は慈悲深い目をもって見つめる。

それは、どこか遠い昔の記憶。

風呂を出て無事食事を食べ終えた悟は、たまこに促されるままに寝室へと移動していた。

さあ、寝ましょう

睡眠不足はお肌の大敵
そして作業の大敵です

三宮悟

分かった分かった……

素直でよろしい、です

三宮悟

……

三宮悟

おい

どうしました?

三宮悟

なんでお前がベッドに入っている?

だって、私人形の魂ですよ?

三宮悟

は?

人形と言えば、添い寝ではないですか

三宮悟

…………

三宮悟

たまこ、俺はお前を人形の魂とではなく、一人の少女として扱うと言っただろう

はい

三宮悟

恋人でもなんでもない男女が同じベッドで寝るなんてことはまずないんだ

そう……なのですか?

三宮悟

だから、そこから出ろ

……あれ

三宮悟

なんだ?

では、私はどこで眠ればいいのでしょう

私は一人の少女なのですよね?

なら、床で眠るわけにはいきません

三宮悟

…………

…………

三宮悟

……分かった、このベッドを使え

三宮悟

俺は床かどっかで眠る

いやいや、それは悟君に悪いですよ

三宮悟

……じゃあ、どうしろと?

一緒に寝ま

三宮悟

却下だ!!

だって、それ以外に解決方法はないですよ?

三宮悟

…………

三宮悟

分かった

三宮悟

寝ている間絶対にくっついてくるなよ

折角の添い寝なのに、ですか?

三宮悟

俺は添い寝が必要な子どもじゃない

……仕方がないですねえ

三宮悟

……何を考えているんだか

ほらほら、早く横になってくださいね

三宮悟

……分かった

…………

三宮悟

なっ

ふむふむ。
今まで抱き着かれる側でしたが、抱き着く側もなかなか……

三宮悟

おい、一体何の真似だ……

いいじゃないですか、なかなか温かいですし

三宮悟

俺は身の毛がよだって寒い

そうですか……

三宮悟

とにかく、離れないと俺は眠らないからな

そ、それは困ります

三宮悟

だから、早く離れろ

はーい

三宮悟

全く……

たまこの行動に振り回された悟だが、久々にまともにベッドに入ったことで眠気に襲われてきた。
目を瞑るとストンと意識が落ちてゆく。

三宮悟

……

眠り……ましたか

全く、分かっていませんね

人形と言えば添い寝

人形は、添い寝されるのが存在価値の一つなんです

三宮悟

……

……まあ、いいです

勝手にくっついちゃいますからね

たまこは悟の背中にそっと抱き着いた。
今まで自分を抱きしめてきた少女とは違い、大きくしっかりとした背中だった。
それに身を任せると何故だかこちらまで安心してしまう。
温もりを求めてひっつきながら、夜がふけるのを待った。
人形の魂は眠らない。
人と触れ合わないと一時的に意識を失うが、こうして誰かといる時間はしっかりと意識を覚醒させている。

彼女は、悟の寝息を聞きながら、ぼんやりと今日一日を思いかえしていた。

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