数年前
数年前
お母さん、この人形なあに
まあ、懐かしい
?
それはね、お母さんがあなたくらいの時に可愛がっていた人形よ
お母さんの?
ええ。そしてその前はお母さんのお母さん……つまりあなたのおばあちゃんの人形だったの
懐かしいわ
へえー!
ねえ、私このお人形さんで遊びたい
ええ、いいわよ
わーい!
可愛いお人形さんだあー
…………
………………
何して遊ぼうかなー
あ……
この子が、この人形の新しい主なんだ
大事にしてもらえるといいな
この子のお母さんは大きくなったら押入れの奥にしまい込んじゃうんだもん……
お名前は何にしようかなー
そうだ!あなたのお名前は___
書斎
そうやって私は……三世代に渡って少女の人形となってきました
けれど……気が付いたらゴミの山にいて……
捨てられたのだと、気が付きました
……ふぅん
何ですか?
その興味なさそうな顔は!
いや、興味ないし
酷いです!
所詮人形を捨てるような持ち主に興味なんて湧くわけがないだろう
俺だって、自分が作った人形がそんな風にされたら悲しいし
……え?
あなたにも、そんな人の心があったのですか?
お前は俺を一体なんだと思っているんだ
プライドだけは高い、自称天才人形師です
挙句の果てには自分で作った人形をハサミで刺してしまうし
それを、今こうして治しているんじゃないか!
そうですね……以外ときちんとした人なんですね、安心しました
以外と……ってなぁ
そういえば、お前は人形の魂だといったな
はい
じゃあ、さっき動いていたあれはなんだ?
あれも意思を持っているようだったが?
まだ現実味がないけどな
あれはおそらく怨霊です
怨霊?
残留思念と言った方がいいかもしれません
捨てられた人形には怨みが宿ります
……それは、魂とは別物なのか?
……説明不足でしたね
私は、魂というより付喪神に近い存在かもしれません。人形に憑りつき、人形と時を刻む魂という概念です
……はぁ
よく分からない
あの人形のみに宿る魂でしたら、こんな風に自立して具現化しませんよ
あの人形が特別大事にされていたからこそ、魂としてあの人形に宿った訳です
……だから、捨てられても私にはあの少女への怨みは生まれません
ですが、しみ込んだ私の思い入れが、あの怨霊を生んだ
……要するに、その人形の中には最初お前が入り込み、
捨てられると同時にお前の一部が怨霊となって残り、ひとりでに動き出した、と
はい、そんなところです
私に怨みの感情はありません。同様に、あの少女への執着心もあまりないのです
……大事にされている人形だから宿ったんじゃなかったのか?
確かにそうですが、もう捨てられてしまいましたし
……そうか
なかなか酷い性格をしているんだな
あなたに言われたくないです
これは、人形に宿る魂として仕方がないことです
依代がなくなれば、新しい依代を探すべし
あの人形がなくなったと確実に証明された今、私は本格的に依代が必要です
断る
ま、まだ何も言っていません!
お前の事情は分かった。
が、それは俺には全く関係のないことだ
そんなこと言っていいんですか?
自称天才人形師
自称とはなんだ!
俺はちゃんと世間に評価された人形師だ!
でも、最近はろくにいい人形を作れていないんですよね?
…………っ
図星です
……その気になれば作れる
でしたら、私の依代を……
俺は、無償の仕事は受けない……
なら、仕方がないですね。
あなたのこの人形を持っていって、天才人形師三宮悟は堕落してしまいましたと伝えて……
や、やめろ!
ってか、なんで俺の名前を?
私の依代を作ってくださる方を探してあっちこっち聞いて周りましたから
とにかく、私と契約してくださらないならば……
……
どうしますか?
……俺は、いい人形を作れないかもしれないぞ
大丈夫です!
悟君が素晴らしい人形を作りあげるまで私はつきまといますから
……疫病神か
と、いうことでよろしくお願いしますね
これは、大変なことになった……
悟は弱みを握られたことに困惑し、突如現れた少女につきまとわられる宣言を聞いて閉口した。
なんとか追い出す方法はないかと頭を働かせてみるものの現実味のない出来事の数々に混乱して上手くはいかない。
結局、流さるままに頷くしか選択肢はなかったのである。