書斎

不気味な音が書斎へと近づく。
二人は静かに扉を見つめた。

そして……ついに扉が開かれる…………

酷いよね。
僕を置いていくなんてさ

三宮悟

な、何だ?

少女

ま、まさか……

みーつけた

そこには引きちぎられ、ドロドロになってしまった、汚らしい布が蠢いていた。
動くたびに、ズズズ……と重たいものを引きずる音がする。

三宮悟

な、なんだこの気色悪い物体は

気色悪い……? 失礼だなあ

そいつは可愛い見た目をしているのに、僕は気色悪いかあ……元は一緒なのにねえ

少女

元は一緒……やっぱり、あなたは

ひひ

ひひひ

ひひひひひひひひひひ

少女

!?

これでどうかなあ

少女

ひっ……

三宮悟

姿が変わった……
なんだこれは……

僕は君。君は僕

君がいないと僕が完成しない。
だから、僕と一つになろう

少女

ひっ……い、いや!

何で? 
僕は君なんだよ?
何で拒絶するの?
ねえ、何で?

もう一度戻ろう?
もう一度、もう一度
僕と

僕と、僕と、僕と
だって君は僕で
僕は君だから
だからだから僕と僕と
君は僕と___

三宮悟

黙れ!!

僕と、僕……と?

三宮悟

黙れと言っているんだ!

…………

三宮悟

さっきから人の仕事場でゴタゴタと訳の分からないことをし始めて……

少女

そ、そうです!
ここは彼の仕事場ですよ!

三宮悟

いや、お前もだ!

少女

ええっ

三宮悟

ここは俺の仕事場だ。
人形の魂だかなんだか知らないが、とっとと出ていけ

三宮悟

……何がおかしい

ろくに人形も作れない奴が『俺の仕事場』だって

こんなガラクタ見ていたってしょうがないよねえ

ほぉら、僕と一緒にまた人形に戻ろう?

僕には魂が必要なんだぁ

くすくすくす

僕と……僕と、ボクと……

少女

あ、あなたはもう人形じゃありません!

少女

た、魂の有無以前に自分の見た目を確認してください

くすくす……僕は素晴らしき人形師の手によって作られた由緒正しき人形……

こんなガラクタ共とは訳が違う素晴らしき人形……

少女

だ、駄目だ……気づいてくれない

三宮悟

……ガラクタ

悟は、自分が作り上げた人形の数々に目を向けた。
どれも素晴らしい装飾が施されているが、それが不完全であることは彼自身が分かっている。
ガラクタと称されるのもあながち間違いではない……それは、プライドが高い彼だからこそ分かることでもあった。

三宮悟

……そうだな、ガラクタだ

三宮悟

なら、これでどうだ?

少女

……!?

…………

悟は手に持っていたハサミで人形を引き裂いた。

三宮悟

あれは形を成したガラクタだった。
でもこうすればただの布。
ゴミでしかない

三宮悟

お前の見た目もこれと同じだ

三宮悟

元がどうだったかは知らないが、そんな見た目で人形を名乗るなんてどうかしている

僕は……僕は、僕は、人形じゃない?

僕はもう、人形じゃない……人形じゃ……

少女

そうです……人形の形を成していないものを人形と呼ぶことはできませんし……魂である私が再び宿ることもできません

僕……は……

少女

あなたは……私は捨てられました……もう、受け入れましょう

すて……られ……

…………

……

やがて、その布は動かなくなった。
原型を失くして横たわるそれは、どう見ても人形には見えない。

少女

本当は、ちょっぴり期待していました。
私の身体が元のまま残っているんじゃないかって

少女

でも、こんな状態では……

三宮悟

おい

少女

あ、はい!

三宮悟

…………どういう状況なのか説明しろ

悟はハサミを投げ捨て脱力し、動かなくなった汚らしい布を見つめた。
目の前で現実味のないことが起きた。
どうも今からそれを信じなければならなくなるらしい。

オドオドとしている少女を横目に彼は大きくため息を吐いた。

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