晩春の頃、あの桜が咲く頃を見計らって、セツナは再び山に登った。
晩春の頃、あの桜が咲く頃を見計らって、セツナは再び山に登った。
だが。
……あれ?
目的地に着いて、正直驚く。
叔父が大切にしていたあの桜の木は、周りの木々諸共斬られてしまっていた。
年明け直後、叔父の別荘を売った時に、別荘は取り壊して新しいペンションか何かを建てると相手方は言っていたが、木を伐るとは言っていただろうか? 呆然と、思い返す。普通の公園の桜と違い、初夏近くになってやっと開く花だから、業者が桜だと気づかなかった可能性も、ある。
……そうか
叔父も、ユキも、そして桜も、逝ってしまった。再び、悲しさが胸を支配する。迂闊だった自分を責める気持ちと、桜を伐ってしまった者に対する怒りも、同時に胸の中に湧き起こった。
だが。
……あ
ふと地面を見て、怒りが消える。切り株だけになった桜の木から、僅かに伸びた枝の先に、可憐な淡紅色を見つけたのだ。たった四、五個だが、それでも、桜は咲いている。
そうだ。そっと、胸を叩く。叔父もユキも、ここにいる。すっかり、忘れていた。
肩に掛けた鞄から、叔父の部屋から持ってきたがっしりとしたカメラを取り出す。
そしてセツナは、微かな風に揺れるその桜の枝を、静かに写真に、収めた。