幽霊よりも甘味が食べたい

第6話「いっしょに……(4)」




















怪談『いっしょに……』の真相。

現れる幽霊の正体は、
森の中で殺された女子生徒ではなく、
その親友……後追い自殺をした女の子だった。


『いっしょに死にましょう?』

幽霊が囁くこの台詞も、怪談話が出来上がった頃は、

『いっしょに遊んでくれないの?』

だったのが、時間と共に変化したもの。

20年前の事件から5年後……
今から15年前に起きた事件がきっかけで、

『いっしょに死んでくれないの?』

に変わり、それがさらに時間が経つことで、

『いっしょに死にましょう?』

になってしまった。


これがピヨ助くんの推理で、
とい子さんも認めた調査結果。


だけど、本当にそうなんだろうか?






「どうして……いっしょに……」

「いっしょに、死んでくれないの?」






あの時聞いてしまったとい子さんの声が、
どうしても頭から離れてくれない。



後日わたしは図書館に行き、
自分で20年前の事件を調べた。

だいたいはピヨ助くんが教えてくれた通りだけど、
細かい補足をすることができた。




20年前

千藤高等学校裏の森林公園にて、
同学校の女子生徒が殺害された。

遺体は校舎の廊下から見える位置にあり、
登校してきた生徒によって発見された。

包丁らしき刃物で胸を刺されており、
即死だったと思われる。

同時に、近くの木からもう1人、
女子生徒の首つり遺体が発見される。

現場の状況から、こちらは自殺で間違いなかった。
死亡推定時刻より、最初の女子生徒が殺された後に
自殺したことがわかっている。

また、2人は親友同士で、
よく2人で一緒にいるところを目撃されている。


これらの事実から、殺害現場を目撃した女子生徒が
後追い自殺をしたと思われる。

凶器が残されておらず、
事件は通り魔によるものと考えられているが、
犯人は見付かっていない。

事件は迷宮入りし、時効を迎えた。

この事件から5年後、
再び同じ場所で女子生徒が殺害されたが、
こちらも同様に犯人が見付かっておらず、
5年前の事件との関連性もわかっていない。


佑美奈

ピヨ助くんの説明を聞いた時は、
あまり気にしていなかったけど……。

この事件、犯人捕まってないんだよね……


わたしは寒気がして、ブルッと震えた。








さらに後日。あの日から1週間後。

わたしの元に新しい情報が舞い込んだ。




ミカ

ゆみゆみ~。
こないだのアレ、怖い話の。
従兄に聞いてきたよ~

佑美奈

こないだのって……え? もう?
本当に聞いてくれたの?

ミカ

え~なにそれ~。
年の離れた従兄がいるって言ったら
ゆみゆみが、聞いてきて!
ってマジな顔で頼んできたから~
聞きに行ってきたのにぃ


ミカちゃんの言う怖い話。
それはもちろん『いっしょに……』のことだ。

こんなに早く聞いてくれるとは思わなくて、
思わず驚いてしまった。

佑美奈

ご、ごめんごめん!
今度パンケーキおごるから

ミカ

それゆみゆみが食べたいだけでしょ?
ま、いいやそれで


その通りでなにも言えなかったけど、
ミカちゃんは笑って話し始めてくれた。

ミカ

あたしの従兄、
やっぱここの学生だったって。
15年くらい前になるのかな?

佑美奈

15年……15年前?!

ミカ

うん。なんか、
3年の時に事件があったって言ってたよ~。
女の子が通り魔に殺されたんだって


図書館で調べた、
2つめの事件の時期と一致する……。

ミカ

でね~怖い話のこと聞いてみたんだ。
でも内容は同じだったよ~?

佑美奈

まったく同じ、だったの?

ミカ

うん。夕方に校舎を歩いていると
すれ違うんでしょ? それも女の子限定

佑美奈

……すれ違う幽霊の台詞は? 違ったよね?

ミカ

あ、そうそう。
そこだけ違ったっぽいよ

佑美奈

もしかして

『いっしょに遊んでくれないの?』

だった?

ミカ

あれ~?
なんだよぅ、ゆみゆみ~知ってたの~?

佑美奈

う、ううん。
昔は違ったってことだけ……

ミカ

ふうん? なんでもちょうど、
従兄の代の時に台詞が変わったっぽいよ?

佑美奈

そっか……


やっぱり、ピヨ助くんの推理通りなんだ。

ここだけは、確認できていないと言っていたから、
なにかあるかもって思ったんだけど。

……考えすぎだったみたいだ。



ミカ

その時に、今の

『いっしょに死にましょう?』

になったんだって

佑美奈

……え?


2つめの事件の時に……?

佑美奈

待って、変わったのって

『いっしょに死んでくれないの?』

じゃなくって?

ミカ

え~?
従兄はそんなこと言ってなかったよ?

今でもそうなんだ、
って驚いてたから間違いないんじゃない?

佑美奈

そ……そう……

ミカ

あ、そういえば従兄の代の時に死んじゃった女の子、怪談話を調べてたって噂もあったんだって。そっちの方が怖い話だよね~

佑美奈

え……

ミカ

おお?
ゆみゆみが珍しくこういうので怖がってる~

佑美奈

あ、ううん。別に、怖くないよ?

ありがとうね、ミカちゃん。
従兄さんに聞いてくれて

ミカ

いいよ~あたしもなんか面白かったし。
あ、パンケーキ忘れないでね?

佑美奈

うん、それはもちろんだよ


笑顔で答えながらも……
わたしは、今の話で頭がいっぱいになっていた。












ピヨ助

ま、ちょっと推理が外れただけだな。

途中すっ飛ばして
『いっしょに死にましょう?』
になったってわけだ。

少しずつ変化したんだろうと思ったんだが、考えすぎだったか

佑美奈

うん……そういうこと、だよね


放課後、まだ陽の高い時間。

わたしは屋上でピヨ助くんと話していた。



ピヨ助

なんだよ、まだ不安なのか?

佑美奈

え、えぇ?

不安って、ピヨ助くんなんで……



ピヨ助

それくらい見てればわかる。
もともと怪談話なんて興味なかったヤツが、自主的に色々調べてるんだぞ?

そんなの、不安だから調べずに
いられなかったに決まってるだろ

佑美奈

……そういうところは鋭いなぁ。
でも、もう大丈夫だってば



わたしはそう答えながらも、
とい子さんのことを、怪談のことを考えてしまう。


とい子さんの台詞は、

『いっしょに遊んでくれないの?』から
『いっしょに死にましょう?』に変化したという。


でも……それだとおかしいのだ。

わたしは確かに聞いた。

とい子さんが、


『いっしょに死んでくれないの?』


と呟いていたのを。

生前の事件を思い出した上で、
とい子さんはそう呟いたのだ。


そして……あの時手に持っていた、あれは……。



佑美奈

…………




ピヨ助

はぁ……。

おい、とい子の件だがな


ピヨ助くんが溜息と共に話し始める。


ピヨ助

……実は、早くも違う形で噂され始めている

佑美奈

え? あ、怪談に変化があったの?


怪談の内容が変わるかもしれないと、
確かにとい子さんは言っていたけど。

まだ1週間しか経っていない。
そんなに早く変わるものなのか。

ピヨ助

もうほとんど別物に近くてな。
だから変化が早いのかもしれん

佑美奈

別物? そんなに違うの?

ピヨ助

夕方、忘れ物を取りに行くと
廊下に女の子の幽霊がいる、
というところは同じだ。

問題はそのあとなんだが……

佑美奈

すれ違い様に囁かれるんじゃないの……?

ピヨ助

ああ、違うぞ。

まず、その幽霊は廊下に佇んでいる。
そこを通りかかると、声を掛けられるのだ。
そのまま幽霊は話を始め、満足するまで
付き合うと、消えていなくなる。

という怪談だ

佑美奈

ぜんぜん違う……!
話をするだけなの?

ピヨ助

そうだな。
しかし話が弾み幽霊に気に入られると、
そのまま連れ去られてしまうらしい。

ほどほどで切り上げてもらうのがいいようだ

佑美奈

え……それって……

ピヨ助

ん? なんだ?

佑美奈

う、ううん。

……その話って、
わたしたちの行動が影響与えてる?

ピヨ助

だろうなぁ。

実は回避方法も最初から怪談に
含まれていてな、
チョコレートをあげると
すぐに満足して消えるそうだ

佑美奈

うわあ、甘い物に弱い幽霊だ

ピヨ助

甘い物が好き過ぎて霊が見えるようになったヤツに言われたくないだろうけどな……

佑美奈

えー……?




・ ・ ・ 。



佑美奈

って そうだ!

ドーナツ! ピヨ助くん!

わたしまだ報酬のドーナツ食べてないよ?
そろそろ出せるよね?



ピヨ助

覚えてたか……。

ま、言うだろうと思って用意しておいた。
ほらよ


ピヨ助くんはそう言って、
見覚えのある袋を取り出した。

もちろん中にはドーナツが2つ!

佑美奈

わあい! やったー! ドーナツ!
とっても甘くて美味しいドーナツ!

ピヨ助

ほんと嬉しそうだな……

佑美奈

ありがとう!
そしていただきます


わたしは早速袋からドーナツを取り出して、
1個目を食べ始める。



佑美奈

ああ……この食感、この甘み!
甘みのあとにやってくるさらなる甘み。
最高に……甘い……






ピヨ助

少し元気が出たようだな

佑美奈

美味しいよう……甘いよう……。

うん? なにか言った?

ピヨ助

なんでもねーよ。

……ちょっと話を戻すが、今話した怪談な。タイトルも変わりそうだ

佑美奈

タイトルまで?
……それもそっか、いっしょに……って、
囁かないんだもんね

ピヨ助

それもあるが、
どうも幽霊が『とい子』と名乗るらしいんだ

佑美奈

えぇ?
じゃあタイトルって、まさか

ピヨ助

ああ。『とい子さん』で落ち着きそうだ

佑美奈

あはは……
なんか、本当にわたしたちが怪談そのものを変えちゃったみたいだね


本名ではないって言ってたのに。
わたしたちと会った時の名前を使っているんだ。





ピヨ助

あ、先に言っておくぞ。

そのドーナツ、
2個目は次の調査の依頼料だと思えよ?

佑美奈

うっ……



まさに2個目を食べようとしていたところで
そんなことを言われ、手が止まる。






佑美奈

ぱくっ



ピヨ助

お、食ったな。
契約成立だ


思いとどまったのは一瞬だけ。

このとっても甘くて美味しいドーナツのためなら、
怪談調査でもなんでもやる。

……だけど。

佑美奈

……でもピヨ助くん。

幽霊って、本当に怖いんだね

ピヨ助

どうした? 急に

佑美奈

うん……ちょっとね

ピヨ助

そんなの当たり前だろ?

幽霊が怖くなかったら、
怪談話にならないぞ

佑美奈

それ、ピヨ助くんが言う?



ピヨ助くんととい子さん。
3人で話していた時は、ちっとも怖くなかったけど。

最後に、廊下で佇んでいたとい子さんを見た時……。



わたしは、怖いと感じたから。



佑美奈

ピヨ助くんは、
怪談の真実を解明したいって言うけど



わたしが抱えているこの疑問。この謎は。

このまま解明しない方がいいのかもしれない。


きっともう、答えはわからないから。

佑美奈

たぶん、わたしはもう、
とい子さんには会えない



だから、この謎は。

わたしの内に秘めたままにしておこう。



佑美奈

時間が経っても、わたしは忘れないよ。
とい子さん……




































佑美奈が調べることができなかった事件の情報


失われている警察資料より


被害者を女子生徒A、
自殺した生徒を女子生徒Bとする。

事件当時、女子生徒Aを殺害したのは
女子生徒Bではないか、
という線での捜査も当然行われた。
女子生徒Bの家の包丁が無くなっているなど、
状況証拠は揃っていた。

しかしそれではあまりに凄惨な事件となってしまい、
女子生徒Bがすでに死んでいることもあり、
それらの情報は隠蔽されてしまった。

決定的な証拠となるはずの
凶器の包丁が見付けられないという警察の落ち度や、
犯人が女子生徒Bだった場合の
学校側のイメージも考慮されたという話もある。

また、その5年後の事件で殺害された女子生徒には、
何故か女子生徒Bの指紋が残されていた。

しかしそれはあり得ず、
間違いと処理され、記録に残ることはなかった。














女の子


  いっしょに死んでくれないの? 

















「幽霊よりも甘味が食べたい」


怪談「いっしょに……」編 完



……続く?

第6話「いっしょに……(4)」

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