二木解決編改訂版
元の内容:殴り合い宇宙
今の内容:うさぎフレンズ
「藤堂、放課後時間はあるか?」
「え、はい? ありますけど……」
「そうか。なら生徒指導室まで来てくれ」
「えーっと……はい、分かりました」
廊下ですれ違った先生に突然そんな事を言われて困惑する。
目つきの鋭い白衣を羽織った女の先生で、長い髪を後ろで一つに束ねている。手足がすらっと長くモデルのような体型だ。思わず惚れ惚れしてしまう美しさなのだが、猛禽類を彷彿とさせる鋭い目がそれら全てを台無しにしていた。綺麗と言うよりも早く、怖いと言う印象が強い。
私、何かやらかしたっけと今日一日の行動を振り返ってみるが、これだというものに心当たりがまるで無かった。
行ってみれば分かる事だが、原因が分からないとモヤモヤする。
放課後。生徒指導室にやって来た。ドアをノックすると返事が来る。
「入れ」
「失礼します」
扉を開き中へ入る。
中には先生と、思いがけない人物がいた。
二木だ。
少し大きめのテーブルに、椅子が四つある。ニ木は先生の正面の席から隣の位置に座っている。
「座れ」
「はい」
促されるがまま、先生の正面、二木の隣に座る。
二木もまた、私のことを睨んでいた。機嫌も悪そうで、居心地が悪い。
「さて、藤堂。お前が何故呼ばれたのか分かるか?」
「すみません。分かりません」
「そうか」
そう言いながら、先生は煙草を口に咥えた。
生徒の前、しかも学校で煙草とかどうなの? と思ったが、よく見ればそれは煙草では無くココア味のシガレットだった。昔やったなあ、シガレットにライターで火を点けてクール気取りに咥えるやつ。しかも外で中学の制服のままやっていたから警察に見つかって怒られたものだ。お菓子だと分かったらさらに怒られた。ややこしいことをするんじゃないって。ちょっとした黒歴史である。因みに先生は別に火を点けて食ってる訳ではないので中二病って訳ではなさそうだ。
カリっという音と共に咀嚼する音が微かにする。
「食うか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。お前藤堂じゃないよな」
「はい。はい?」
「悪霊でも取り憑いているのかと思ったが、そうではなさそうだ。お前は誰だ」
「え……っ!?」
中身が別人みたいに扱われたことはあったが、実際にそうだと言ってくる人は初めてだ。しかも真実と来ている。隣を見れば二木も真剣な顔をしており、何と返せば良いか困ってしまった。
「あんたさ」
ここに来て二木が初めて口を開く。
「マジで誰なわけ? 藤堂じゃないっしょ。うち分かるんだよねそう言うの。霊感ってゆーの?」
「二木さん面白いことを言いますねマジですか?」
「マジよ」
「ただのヤリマンだと思ってた……あ」
「は? 殺すぞ」
思っていたことが声に出てしまい殺気立つ。ヤリマンのギャルだと思ったら霊能力者。どちらにしても近づきたくない人間だった。
「ぶ、ふはははは。良かったじゃないかヤリマン君。処女はいつ誰とやって失ったんだ?」
「橘先生、冗談も過ぎると愛人のこと洋一さんにバラしますよ?」
「おっと。それは困る」
「先生不倫ですか……」
「藤堂、何を引いている」
「だって……」
「私は愛の狩人だ。仕留めて来た男は全部で十五、今狙っているのが二木の友人である渡部洋一だ」
百とか冗談で言うのかと思ったらリアルな数字が出て来て寒気がした。まさかの先生がヤリマンだった。しかも二木のお友達さんに手を出している。ギャルの友人だし同じ生徒じゃない可能性もあるけど……そうじゃなくて。
「私が悪霊って、どういう事ですか?」
脱線したけど本題に入ろう。脱線させたの私だけど、さらに脱線させた先生には大目に見て貰いたい。二木はごめん。
「悪霊だと思ったら、と言ったろ。別にお前は悪霊じゃないさ」
「それはいいんですけど……」
「で、お前は誰だ?」
「どうした分かったんです?」
「口調、本当は違うんじゃないか? 戻していいぞ」
「後々が面倒なので」
「そうか」
と言っても僕の考えた女の子らしい話し方をしているだけで、菫が実際どんな口調だったかは不明だ。子供の頃を撮影したビデオ何かは可愛らしく元気な女の子と言う印象だったが、俺が憑依した時点では暗い女だった。SNSとかの記録を見ると暴力的な発言もしていたし、あくまで表面を取り繕う為の話し方かつやっていて難しくない喋り方をしているだけである。しかしこれで通して来た以上、下手に素を出すと中身が別とは言われなくても、変な風に思われてしまう可能性が高い。最も、気を抜くとすぐに素が出るから深く考えている訳では無いのだが。
「さっき竜胆が言ってただろう。竜胆には霊感がある」
「オカルトな話ですね」
「そうだな。勿論理由はそれだけじゃない。な、竜胆」
二木がこくりと頷く。
「うちさ、人の動きっていうの? そういうの覚えるのが得意なんだよね」
「はあ」
「特にあんたのことは気にしてたからさ。仕草、話し方、動き方、ぜーんぶ違ったワケ」
「それは昔から変わろうと」
「それも含めて、まるで自分の体に慣れてないみたいな動きをしてたワケよ。言い訳は?」
「……無いです。それで、私はどうなるですか? 成仏すればいいんです?」
言い逃れができる状況ではない。成仏できるなら本望だ。
「問題はそこだよ。今キミが成仏したとして、藤堂は戻ってくるのか?」
「それは……分かりません」
「もう一人の僕~、みたいな感じでお前の中に藤堂がいたりは?」
「少なくとも菫の意思はありませんね。何でこの体に私が宿ったのか分からないくらいですし」
戻ってきてくれるなら成仏して良いと思ったのだが、言われて気付く。俺が成仏したところで、菫が戻ってくる保証はない。もし今の状態で俺が成仏すると、動かぬ人形のようになってしまう可能性も。そしたら里奈や家族、友達になった伊吹さんたちが悲しむかもしれない。その辺が解決できるなら、未練はない。
「原因は黒魔術じゃない?」
「またオカルトですね」
「だってほら」
二木がスマホの画面を見せてくる。
「えっ、これって」
「そ。あんたとのDM」
スマホにはツブヤイッターのDM画面が映し出されている。
可愛いウサギの写真アイコンが、初期設定のままのアイコンとしていたであろうやり取り。その相手は、藤堂菫、即ち私だった。
「え、でも、私が確認した時にこんなやり取りは……」
思い返せば三月の終わり、突然女になったことに戸惑いながら調べられるものは調べて来た。その際に確認したDMのやり取りはウサギからの……ウサギ!?
「え、これ二木さんのアカウントだったんですか!? よろしくぴょんがよろしくぴょんなのに!!」
「黙れ殺すぞぴょんぴょん言ってるのは私じゃなくてぴょん吉だ」
「ウサギはぴょんって鳴きませんよ」
「ンなこた百も承知なんだよ!! うちの子はブーブー鳴くわ!」
「豚さんみたいですね」
「アァン!?」
しかしウサギアカウントは二木のだったか。DM履歴が二木の方にだけ残ってるのを見ると、菫側は最初の挨拶以外を全て消していたのだろう。ツブヤイッターのDMは此方側のメッセージを消しても、相手側に残る仕様だから、二木の方にだけそれが残っているのが分かる。
「どうやら私の方は菫が内容消しちゃってたみたいなので、ちょっと見せて貰ったもいいですか?」
「チッ」
舌打ちしながらスマホを此方に渡してくれる。
遡って内容を確認した結果、最初は菫から一方的にDMが届いてただけのようだ。ウサギの中の人がばれたのは去年の六月、二木の姿がちらっと映った動画が上げられていたらしく、特定に至ったようだ。特定厨おっかねー。
ただ、別にそれを弱みに何かするわけでもなく、この頃の菫もまだ、二木が憎いとは呟いていなかった。
そういった内容を呟くようになったのは去年の九月から。ありふれた呟きが異世界最強になるかの如く、嫌みbotと化していた。二木はそれを受け、DMでどうしたのかと聞いている。対し、返事は無く、二木が心配するようなやり取りがあった。
二木めっちゃ良い奴ですやん。で、問題は三月か。どこかのサイトのURLが貼られている。
「これ、飛んでも?」
「ンァ? それならうちも知ってるサイトだから問題ないよ」
「ども」
知ってるってことは悪質なサイトではないのだろうか。張られたリンクへ飛んでみると、オカルトサイトの一ページだった。
二木がこのサイトを知っているのはもしや……一回飛んだからだけかもしれない。きっとそうだろう。
見れば黒魔術に関する内容が書かれていた。良く分からん。
DMに戻ってみれば、これを使い降霊の儀式を行うことや、これからの私は私ではなくなる、お前を呪い殺すとか書いてあった。心配してくれてる人に呪い殺すって……聖ちゃんのこともあるし、逆恨み説濃厚だ。
「降霊の儀式って、まさかこれで」
「原因がそれかは不明だが、時期や現状を見るにその可能性は高い。そうだな?」
「そゆこと」
「はー」
そんな摩訶不思議なことが原因なはずが、と言いたいが、ここにその摩訶不思議がいるんだ。否定できない。
サイトの方の内容を読めば、詳しい儀式の内容は次ページへとあった。その先へ飛ぶと、404のエラーメッセージが出た。
「サイトが消えてるみたいですけど……」
「それ、うちが見た時も消えてたのよね」
「初めて聞いたぞ。どれ、見せてみろ」
先生が二木のスマホを確認後、自分のスマホを弄りだした。
「アーカイブと魚拓も無さそうだ。サイトを掲載してる人にメッセージを送っておこう。もしかすると何等かの解決策になるかもしれないからな」
「助かります」
自室でそういった儀式を行った形跡は無かった。外で行ったのか、菫の心はどこへ消えてしまったのか。
「てっきり悪魔か悪霊でも降ろしたのかと思ってたけど、あんた、別に悪いヤツじゃなさそうね」
「悪霊だったらどうするつもりだったんですか?」
「拘束して尋問してた」
「こっわ」
「嘘嘘冗談」
冗談きついわー。でも二木ってやっぱ悪い奴じゃなさそう。友達になれるかは別として。
「でもなんで菫のことそんなに気にしてくれてたんです?」
「うちのウサ吉を可愛いって言ってくれるヤツに悪いヤツはいない」
「あ、はい」