座席順
青木 6 工藤 田中 二木 矢野(チャラ男)
伊吹 7 近藤 千歳 22 矢野
3 8 佐々木 藤堂 間桐 山田
4 9 鈴木 中島 24 29
5 木村 須藤 中村 25
最終話あたりに持ってくるやつを今から書く精神(まずは本編書けよ)
最終的に前の話と全部繋げてつじつま合わせ。その関係でこっからさらに加筆修正は入ると思われ。(ここまで持ってくのに30万文字くらいかかりそうなの気のせい……?)
これまでのあらすじ
クズ……じゃなかった。菫と和解し秀一が菫として生きてきた全ての時間を返した。結果、秀一が現世に留まれるのは残り僅かになった。
楓の誕生日パーティーを伊吹邸でやった。
楓の誕生日会が終わり、後片付けをする。
去年の俺では渡せなかった誕生日プレゼントを、ようやくこの手で渡すことができた。
藤堂菫としてのプレゼントだったけれど、喜んでくれたようで何より。
「夜か……」
気付けば私はバルコニーにいた。
外を見れば夜空に綺麗な月が浮かんでいる。
どうやらまた、意識が飛んでいたようだ。
「はは……楽しかったなあ」
最初は驚きと困惑が多かった。男の体で眠ったら、女の子の体だったのだから当然だ。
それから藤堂菫として、色んな人と出会って、仲良くなって。
菫はとんでもないクズだったけど、本当は変わりたくって。
「本当に、楽しかった」
本来なら俺は既にこの世にいない。死んだ人間が、いつまでもこの世界に留まっていちゃいけないんだ。
今なら、菫も戻って来られる。ヤマンバだった菫はもう、いないのだから。
なあ、私。だからさ。返すよ。この体。本来の持ち主があとはよろしくやってくれ。
「すみぽん、こんな所にいたんだ」
「涼ちゃん」
バルコニーに涼ちゃんがやって来た。
思えば彼女は私にとって、最初の友達になるのか。
会話した相手こそ、間桐君が最初だけど、私のことを友達だと言ってくれたのは、涼ちゃんが最初だった。
きっと、菫が戻ってきても、仲良くやってくれるだろう。
誕生日会の片付けから今までの空白の時間、私がどこで何をしていたのか分からない。
涼ちゃんが探しに来たということは、寝る準備でもしていたのだろうか。
「一緒の部屋でパジャマパーティーしようと思ったらいないんだもん。探しちゃったよ」
「ごめんごめん。ちょっと夜風に当たりたくなって」
「変なの」
そう言いつつ、涼ちゃんが隣に並んだ。
「綺麗な月だね~」
「うん」
「春から、色々なことがあったね」
「うん」
「……すみぽんは、楽しかった?」
当たり前だ。
涼ちゃんや間桐君、二木さんや聖ちゃん、里奈に、楓。大河や薫。色んな人と仲良くなって、楽しい日々を送ってきた。
こんな時間が続けば良いのにと、何度思ったことか。
「うん、楽しかった」
「そっか」
ふいに、涙が零れ落ちそうになる。
こんなところで泣けば、変に思われてしまうだろう。
「ねえ、すみぽん」
「なに? 涼ちゃん」
「もう、いいんだよ?」
「え?」
突然のことに言葉が出なかった。
気付けば私は、涼ちゃんに抱きしめられ、頭を撫でられていた。
「……私、好きな人がいたんだ。男の子」
そういえば以前、恋バナをした時。そんなことを聞いた記憶がある。
中学時代に一目惚れした相手を、未だに好きだとか。
「中学の卒業式の日にね、告白しようとしたんだ。でも、できなかった。勇気が無かったんだと思う。その人のことは良く知らないし、それっきりだった。でもね、今なら分かるよ。その人のこと」
何の話をしているのだろうか。
何故突然、この場所で、その話を始めたのだろうか。
「その人ね。立花秀一君って言うんだ」
「え……」
「ねえ、すみぽん。ううん、秀一君。あと、どれくらいいられるの?」
「何、を……」
「前に言ったよね。私、人を見る目はある方なんだって。最初からね、おかしいとは思ってたんだ。すみぽん、ずっと自分に嘘ついてたから。だけど知らなかった。私は、秀一君が死んだことすら知らなかった」
「なんで……」
「えへへ。秀一君、最近時折入れ替わってたんだよ? 気付いてなかった?」
入れ替わっていた? 誰と誰が?
俺と、私が?
それはつまり、意識が飛んでいる間、菫自身が私として動いていた、ということで。
「私が、言ったの?」
「うん……最初はね。何の冗談なのかと思った。けど、すみぽんの目は嘘をついてなかった。凄いね、秀一君。ずっと一人で、寂しくなかった?」
「ぁ……」
「すみぽん、泣いてたよ。もうすぐキミが消えてしまうって。すみぽんにちょっと嫉妬しちゃった。だって、ずっと私の好きな人と一緒にいたんだもん。ずるいよ……ねえ、もう、残れないの?」
どこまで菫は話したのだろう。
自分の中に問い詰めても、返事は来ない。
「決めたはずなんだ。私のすべてを彼女に返して、俺は消えようって」
今この瞬間だけ、私は俺でありたいと願った。
「俺さ……本当に、訳わからなくてさ……」
あの頃の俺は、伊吹涼香のことなんて知りもしなかった。
同じ中学だったとは聞いている。同じクラスになったことはない。廊下で偶然会う程度の、そんな仲。
「気付けば体が女になっていて。それがどうしようもない屑で、虐められてるだけかと思ったら、二木とかに悪いことをしていて」
恋なんてしたことがなかった。
女を好きになるという、本当の感情を知らなかった。
さっきまで、彼女は俺にとって、ただの友人の一人に過ぎなかった。
けど違う。ただの友人? 馬鹿いうな。親友だ。そして俺が、俺という男は。
「きっと、この恋は実らない」
「うん。分かってる」
「俺は! 俺は……キミのことが好きだ。好きだと思う。今、そう自覚した」
「ありがと」
「けど駄目なんだ。俺はもう、いないんだ。だから」
自覚したくなかった。気づきたくなかった。
ずっと、秘めていて欲しかった。
何故今頃になって、そんな話をしてきたのか。菫め、やっぱりお前はクズだ。クズ野郎だ。
お前が余計なことを言わなければ、こんなことは思わなかった。
「俺は、生きていたかった! なんで、なんで俺が消えなきゃいけないんだ!」
「秀一君……」
「分かってる。俺は菫の人生を食いつぶしてきた。だからこそ、菫に全部返そうとした。けど! それでも、死にたくない……消えたくない……怖い、怖いんだ……知りたくなかった。キミの思いも、俺は知りたくなかった……っ!」
「ごめんね」
「謝らないでいい! 謝らないでくれ……」
なんて惨めなんだ。
こんな姿、誰にも見せたことが無かったのに。
俺はもう、消えようとしていたのに。未練なんて、残ってないと思ったのに。
俺はこんなにも未練を残して、なんて惨めなんだ。
「……涼ちゃん……私は、俺は……もう、時間が無いんだ」
「すみぽんから聞いてる」
「今日までずっと楽しかった。それも、キミという友達がいてくれたから。だからお願い……その楽しさを、菫にも教えてあげてくれ」
菫は変わることができた。
ほんの些細な切欠さえあれば、彼女も今の俺のように、楽しい日々を送れたはずだ。
それができなかったのは不幸としか言いようがないが、この後戻ってくる、本当の菫は、その幸せな世界で目覚めることができる。借りていたものは、返さなくてはならない。
「大丈夫だよ。すみぽんはすみぽんだから。私の、大切な友達だから」
「ありがとう……」
月が雲に隠れ、暗くなる。
唇に柔らかい感触があった。
「さよならは言わないよ~? だから、待っててね。また会えたら、その時にちゃんと告白するから。返事、期待しているからね?」
「うん……」
別れは必ずやって来るもの。
本当なら俺は、楓の誕生日会をすることも叶わずに消えるはずだった。
きっと神様が、僅かばかりの猶予をくれたのだろう。
そんな魔法の時間も、もう終わり。
「……ねえ、すみぽん。私、本当は最初から気付いていたんだと思う。だって、目が同じだったから」
「もう、いいよ」
「すみぽん、私、なんで……」
かつて彼女にそうしたように、私は涼ちゃんを抱きしめた。
思えば四月。私の中にいた彼は、同じように涼ちゃんを抱きしめてあげたことがある。あの時は嘘なきだったけれど、今は違う。
もう、私の中に彼はいない。
「きっとあの人は、私を助けてくれたんだと思う」
正真正銘クズな私。SNSには妹や、今では友達である人たちへの悪口ばかり。
殺そうとしたこともある。けど全部、勝手な嫉妬が原因で。
本当は私も、友達と遊びたかった。その勇気が無かった。一言、そう言い出せば良かったのに、一歩、前へ踏み出すだけで良かったのに。それが出来なかったんだ。
私は死のうとした。薬を飲んで、自殺を図った。
彼が私の中に来たのはその時だ。
一体どういう原理でかは分からない。佐々木さんと違い、オカルトは詳しくない。
けれど、彼が私を救ってくれた。このことは事実だ。
私の中に彼が返してくれた私としての生きてきた時間が宿っている。
どこか不思議な感覚。ふとした瞬間に、彼の存在ごと消えてしまいそうなほど、私の持つこの幸せは大きなものだった。
「涼ちゃん。もう、我慢しないで」
「うぅ……ぁ……あぁああああああ!!」
涙が枯れるまで、涼ちゃんは泣いた。
この日、私の中にいた、もう一人の私は、消え去った。
◆
拝啓、立花秀一様。如何お過ごしでしょうか。
あれから、色々なことがあった。
私たちは進学し、大学へ通い始めた。中には就職した人もいる。
それから結婚し、子供が出来て、その子供にも子供ができる。
すみぽんは、ちゃんと貴方が望んだように、幸せな道を歩んでいったよ。
お兄ちゃんと結婚したのはビックリしたけど、その子供がまた可愛くて、名前は香澄って付けたんだ。
間桐君が光ちゃんと結婚したのはビックリしたなあ。八歳差のカップルで、私たちの中で一番年の差がある結婚だった。
皆子供が生まれて、孫ができて。けど私は、他の人とお付き合いする気になれなくて。
ちょっとデートをしたり、とかが無かったと言えば嘘になるんだけど。結婚しようって気にはならなかった。
それから一人、また一人と。寿命で、時には事故で、この世を去って。
気付けば私も百歳近くのお婆ちゃん。もっと早くキミの下へ行く筈だったんだけど、何故か一番最後になっちゃった。
◆
病院の一室。私を見守る誰かがいる。
多分、誰かの子供か、孫だったと思う。それが誰だったのか、思い出せない。
私は今、目を開けている。白い天井と、誰かの顔が目に映る。
体は思うように動かず、声を出しても特定の意味を持たない謎の言語と化してしまう。
好きな人がいた。
その人の顔も、名前も、声も。何もかもが思い出せない。
私がなんていう名前で、どういった人間だったのかも、思い出せない。
私はもうすぐ死ぬのだと思う。寿命、というやつだ。百年近く生きたのだから、もう充分だろう。
私は幸せだったのだろうか。
目に映る光景が全てぼやけて見える。
徐々に視界が暗く閉ざされていく。
この闇に溶けるように、私の意識も消えるのだろう。
ああ、ようやく、行けるんだ……一体、どこに?
大切な約束をした気がするけど、それももう、思い出せない。
消えていく。
消えていく。
暗いよ……怖いよ……寂しいよ……。
私は孤独な闇の中で、静かな死を迎えた────。
◆
歌が聞こえた。
これは、何の歌だったか。
そうだ。思い出した。ビリーブだ。
卒業式の定番ソング。歌っているのは……私だ。
周囲を見渡せば、私と同じ中学の制服を着た生徒たちがいる。
歌が終わり、卒業式の締めくくりの言葉を校長先生が読み上げる。
先生に続いて、私たちは教室に戻り、最後の別れを済ませた。
何か、しなければならない気がした。
私は探す。あの人の姿を探す。
一目惚れだった。
中学に入学した時、ちょっと目があっただけ。会話もしたことすらない、そんな相手。
告白なんておこがましく、フラれることは分かり切っていた。
彼には幼馴染の可愛い女の子もいるし、きっとその子と付き合っているのだろうから、邪魔をしてはいけないと。
でも、約束したんだ。
……誰と? 分からない、けど。
教室を出て、昇降口を出る。
今年は例年より早く、桜が咲いた。
風が吹き、一面を覆い尽くすような桜吹雪が目の前に広がった。
──見つけた。
彼の背中を追いかける。
それから静かに、彼の名を呼んだ。
「ん?」
彼が振り返る。
私はごくりと唾をのんでから、意を決して。
「あの、一目見た時から好きでした!」
そう、告白した。