立花家を出て藤堂としての家に向かおうとした時、懐かしい顔と再会した。
幼馴染の|遠藤《えんどう》|薫《かおり》だ。弟で一個下の|大河《たいが》とは良く遊んでいた。薫ともそれなりに仲良くやっていたつもりだ。考えてみれば私は今、大河と同い年なのか。
まさか声をかける訳にも行かず、立花家から出てきた私を「誰だこいつ」という顔で見ている薫に会釈して横を通り過ぎる。もう会うこともない、とは言えない。何せ薫は私と同じ高校の制服を着ている。あっちの学年は三年なので先輩になるので、そうそう会うこともないはずだが、同じ学校に通っているのだし、そうじゃなくても同じ町に住んでいるのだからまた会うこともあるだろう。
その時、何か聞かれたら何と答えるか。恐らく秀一の葬儀などにも出席しているはずだ。今の今まで顔を出さなかった私が何者なのか探ってくるかもしれない。そしたらあれだな。菫という人間について説明すれば事なきを得るか。実際ヤマンバだった頃の証人もいる訳だし、この辺は問題ないだろう。
なら特に深く考えることもないか。さっさと家に帰ろう。
家に着く。少々帰宅が遅くなってしまったが、里奈はまだ帰っていないようだ。
「お帰りなさい。学校はどうだった?」
「うん。何とかやっていけそう」
「そう。それは良かったわ」
本当に心の底から良かったと思っているのが分かる。それだけ、去年の菫は酷く、心配だったのだろう。
「友達はできそう?」
「何人かはできた、かな?」
「本当に? あなた、やっぱり変わったわね。今の方がいい顔をしているわよ」
「えへへ」
そりゃ中身が違うから変わっていますよ、なんて言いだせるわけもなく。笑って誤魔化した。
部屋に戻り鞄を置く。明日の準備を終えてから、母さんに何か手伝うことはないか尋ねる。
ちょっと前ならMMOを起動してその中で出会った友人と遊んでいたのだが、残念ながらそれも俺が死ぬ頃にサービスを終了してしまっている。チェインで連絡を交換していた面子もいるが、菫ってスマホ持ってなかったんだよな。今週末に父さんが一緒に買いに行くと話していたので、その時にでもアプリをチェックしてみるとするか。
いまだに二人のことを母さん、父さんと呼ぶのは慣れないが、徐々に慣れていこう。
「ただいまー! あれ、なんか甘い匂いがする?」
程なくして里奈が帰宅した。
それまでの間、暇だったので家にあったホットケーキミックスを使いホットケーキを作っていた。
時刻は14時を少し回ったところ。里奈も弁当は持って行っていなかったので、実質これが昼飯だ。
始業式が始まるまでに何度か母さんの手伝いはしている。菫は親の手伝いもろくにしていなかったので、それはたいそう驚かれた。
「お帰り里奈。ホットケーキ作ったから、一緒に食べよ?」
「お姉ちゃん、もしかしてお母さんより焼くの上手いんじゃないかしら? お母さん、いつもちょっと焦がしちゃうのよね。このままだといつの日か、お母さん越されちゃいそう」
「越すように頑張ってお手伝いするね」
「あら、ありがとう。ふふ」
よっぽど娘が手伝いをしてくれるようになったのが嬉しいのだろう。とてもいい笑顔だ。
母さんは俺の方の母よりも見た目が若く、もし私が男のままだったら惚れてしまいそうなくらいに美人だ。
もうすぐ四十になるはずだが、二十代のような若さを保っている。
その血が遺伝しているからこそ、菫も、里奈も美人なのだろう。
「お姉ちゃんが作ってくれたの? わーい!」
「こーら、まずは手を洗ってくるの。ほら、一緒に行こ?」
「うん!」
里奈と一緒に手を薬用洗剤キレッキレで綺麗にする。手はぴかぴかでキレッキレになった。キレッキレの意味は良く知らない。
リビングの椅子に座り、母さんも一緒にホットケーキを食べる。我ながら上手く焼けたと思う。メイプルシロップをかけ糖分を吸収。太らないように後で運動しなきゃ……菫って、引きこもりだった割りにスタイル良いんだよな。普段ほんと何してたんだ。
「美味しい! お姉ちゃんありがと」
「どういたしまして。これからも頑張るからね」
「ほんと、変わったわねえ」
ホットケーキを食べ終えてから、食器を片付ける。
母さんがやると言っていたが、これくらい手伝わせてほしいと頼んで洗い物を行う。それを終えてリビングに戻ると、母さんが里奈と何か話していた。
「そう、友達ができそうで良かったわ」
「うん!」
里奈はもう友達ができたのかー、どんな子たちなのかちょっと気になる。まさか男友達もいるんじゃないだろうな? 変な虫がつかないように気を付けないと。
「あ、お姉ちゃん」
私に気付いた里奈が何故か小さい声で言った。
「里奈、お姉ちゃんも友達ができたそうよ」
「ほんとに!? お姉ちゃん友達ができたの!?」
「う、うん。できた……よ?」
そんなに驚かないで欲しい。ちょっとショックだ。驚く気持ちもわかるけどさ。
私をお姉ちゃんって呼ぶ声が小さかったのって「やっべ、友達いない人の前で友達の話しちゃった」って感じだったか。そりゃ気まずいわ。
「お姉ちゃん良かったね! 友達出来て!」
「あ、あはは」
妹にここまで言わせる姉って。
私的には友達ができた、と思っているのだけれど、そんな風に言われるとちょっとばかし、あれ、友達ちゃんとできたのかな? って疑問に思ってしまう。まさか一方的に私が友達だって思い込んでいるだけで、あっちからしたらいまだにヤマンバなわけじゃないよね。違うと信じたい。明日それとなく確認してみよう。
夕方。父さんにも友達ができたことを驚かれたのは言うまでもない。
◆
翌日。この日から通常運行で本格的に学校生活が始まる。
授業に使う忘れ物がないかよく確認し、里奈と一緒に家を出る。
校門まで一緒に登校していると、後ろから声をかけられた。
「すみぽんじゃん~! おっは~!」
「伊吹さん、おはようございます」
元気よく手を振りながら近づいてきたのは伊吹さんだ。ちょっと間延びしたような声が特徴的だ。
「あれ、すみぽんの隣にいるのは~、妹さんかな~」
「おはようございます先輩、あの、お姉ちゃんのお友達さんですか?」
「うんうん~、そうだよ~、すみぽんとは友達さ~折角だから友達一号を名乗らせて貰お~」
「……ほんとに友達できたんだね」
今ぼそっと言ったの聞こえたぞ。里奈め、信じていなかったな?
伊吹さんから友達承認頂けてほっとした。もし一方的な友達関係だったらと思うと、悲しいやつになってしまう。
「すみぽん妹さんと仲が良いんだね~」
「はい! 里奈はとても良い子なんです」
「お姉ちゃんたら……」
「実は私にも妹がいてね~、今度うち来て~、紹介するからさ~」
「本当ですか?」
「うんうん~、その時は是非里奈ちゃんも~」
「わー! 先輩の家ですか。楽しみです!」
まさかのおうちにお呼ばれ。大丈夫? 早くない? 友達になってからまだ一日……同じクラスになったのは去年からっぽいから、その期間を含めれば……と思ったけど、その期間全く交流無かったはずだわ。
話していたら昇降口まで着いてしまったので、里奈とは途中で別れる。
「里奈、また後でねー」
「里奈ちゃん、またね~」
「お姉ちゃん、先輩、それでは!」
階段を上りつつ、ふと疑問に思ったことを尋ねる。
「伊吹さんの妹さんってお幾つなんですか?」
「うちの妹はね~、五歳になるよ~」
「五歳となるとまだ幼稚園児ですか?」
「そうだよ~、ほんと、可愛いんだぁ~」
わかるー、妹可愛いわかるー。伊吹さんも見た目可愛いから、きっと妹さんも可愛いに違いない。可愛い同盟が組めそうだ。
教室に入ろうとすると、先に来ていた二木と目が合った。
このギャルっ子、見た目の割に朝早いな。
「二木さん、おはようございます」
「おー、すみぽん花瓶置かれた相手に挨拶とか菩薩かよ~」
伊吹さん余計なこと言わないで!?
二木めっちゃ睨んでるじゃん!
「おはよ」
それでも一応挨拶は返してくれるんだ。礼儀正しい子だ。
苦笑いしつつ自分の席に向かおうとすると、二木の呟き声が耳に入る。
「何考えてんだクズ野郎」
低い殺気立った声。思わずたまひゅん、たまは無いから鳥肌だけ立つような声だった。
菫、二木と一体どんな因縁があるのよ……あとでタイミングを見計らって、ちゃんと話し合うべきなのかもしれない。
「ちょおまやめろってぇーこっち来んなよ!」
「ああん、待てよおにぎりぃ!」
自分の席に向かおうとしたところで、教壇周りで騒いでいる二人組に気付いた。
特徴的なのはその頭だろう。どちらも共にスポーツ刈りで、スポーツ少年という印象を受ける。
実際にその通りで、二人は野球部所属だと自己紹介で言っていた。確か名前は|青木《あおき》|純也《じゅんや》と|木村《きむら》|正和《まさかず》。ちゃんとフルネームで覚えた私、偉い。
何を騒いでいるのかは知らないけど、青木が木村を追い回している。朝から元気なことで、こういった風景はどこの学校でも似たり寄ったりなんだなあと思う。
そんなに駆け回ったら物とかにぶつかって危ないぞ。注意すべきだろうか。だけど去年までがアレだったからなあ、下手を打って孤立するようなことは極力避けたい。
どうしたものかと思いつつ、チャイムが鳴れば席に着くだろうとそのまま自分の席に向かおうとしたとき、事件は起きた。
青木が木村に伸ばした手が、そのままズボンに引っかかったのである。
木村は少々、というより結構太っている。おにぎりというあだ名も見た目から来ているのだろう。ベルトを着用していればまず、そのズボンが下がる、なんてことにはならなかったはずだ。
残念なことに木村はベルトを着けていなかった。ズボンも大き目のものを履いていたのだろう。腹が出ているせいで腰履きだったこともある。様々な偶然が重なった結果、とも言える。
要するに、下がってしまったのだ。ずるりと、それはもう見事に。
そのままパンツでとどまればよかったのだが、運の悪いことに青木の手はパンツまで一緒に下げてしまった。
丁度、それが私たちの目の前で起きたのだから唖然としたのは言うまでもない。
「へ………………きゃ、きゃぁあああああ!!?」
悲鳴が上がる。勿論私のものではない。ちっちゃいなーとか思ったけど、一応目は逸らしてあげた。
伊吹さんが私に抱き着いてきた。悲鳴を上げたのは彼女だった。本当に運の悪いことに、伊吹さんは木村のアレを見てしまったのだ。アレとはアレだ。私の下を家出したまま帰ってこない息子のようなものだ。
「おおい青木っちぃ! ち〇こ出ちゃったじゃん!」
「悪い悪い!」
悪いで済むような話でもないと思う。公衆の面前で晒された方からしたら堪ったもんじゃない。外だったら痴漢で警察呼ばれてるぞ。校舎内だから出してもいいって物でもないのだけど!
二木がふざけあってる二人組に近付いた。何をするのかと思えば、木村、ではなく、青木の胸倉を掴んでいた。
「あんたさあ、常識ってもんがないわけー? 私でもわかるんですけどー? 普通さあ、こういうことしなくなーい? 頭いかれてんじゃないのー?」
「ああ? なんだ二木、喧嘩売ってんのか?」
「そうだよ? 分かってんじゃん」
「てめえやんのかアァ!?」
「それ、こっちのセリフ。木村もさっさとズボン上げろよ。そんなちっちぇえの出してんじゃねえよ」
大人しくズボンを上げている木村と違い、青木が今にも殴りかかろうとしている。
青木が腕を振り上げた。
これはまずい、と思ったその時、その腕をつかみ上げる人がいた。
間桐君だ。
「それくらいにしておけ」
「てめ、おいふっざけんな!」
「皆見ているぞ」
「チッ!」
青木は舌打ちをしてから席に戻ろうとする。
その襟元を二木が再び引っ張った。
「ぐえっ」
のどが絞まったのか、そんな潰れたような声が聞こえる。
「謝りなよ」
「アァ?」
「伊吹、泣いてんじゃん」
そう、伊吹さんは泣いていた。直接何かされた、というわけではない。運悪くアレを見てしまっただけだ。
それでも彼女なりにショックだったのだろう。私の胸に抱き着いて、しくしくと泣いていた。
「うう……」
「伊吹さん……」
こういう時、私はどうすればいいのか。登校二日目からちょっとイベントが大きすぎやしないですか。
取り合えず頭を撫でてあげる。楓や、里奈にしているように。
「うう……結構ある」
胸を何故か揉まれた。あれ、泣いて、これ嘘泣きだな?
「ちっ、悪かったな伊吹。木村のお粗末なもん見せちまってよ」
「うう……ぷ」
今笑ったぞ!?
「あんま問題起こすなよ?」
「チッ、わあったよ」
二木に舌打ちをしつつ青木が席に戻る。二木もまた、自分の席へ戻った。
「すみぽん、結構おっぱいでかいよね~」
「伊吹さん、余裕ありますね」
「弟のより小さかったよ~?」
「おう……」
今回の件で一番の被害者は大衆にそのナニの小ささを見せてしまった木村だな。ナムサン。
伊吹さんはそのまま自分の席へ向かった。前の席の青木と談笑している辺り、険悪な雰囲気になっていないようで何より。
私も席に着き、隣に間桐君が座る。
「間桐君かっこよかったよねー」
「分かるわかる。惚れるわ~」
そんな声が周りから聞こえた。
間桐君も流石だけど、あれだけ言える二木もかっこよかった。惚れるわー。
「さっきは大変だったね」
「せめてもう少し落ち着きを持ってくれるといいんだけどね」
間桐君がため息を吐いた。そんな姿も様になっているというか、これだからイケメンは狡い。女の私でも惚れてしまいそうだ。……異性なんだし合ってるんじゃね? という突っ込みはさておき。
やはり二木が悪い人物だとは思えない。さっきの行動と言い、どちらかと言えば非は菫の方にあるんじゃないだろうか。
個人的には二木とは仲良くしたいが、どこかで和解できるようなタイミングが掴めないものか。難しいところである。
ホームルームが終わり、授業が始まる。
進級したばかりということもあり、内容は一年の頃のおさらいがほとんどだった。
懐かしいなあと思いつつも、通っている学校が違うからか時折違う内容も入っていて中々新鮮だった。
俺の方の学校は商業工だったので、経済活動と法とか簿記とかの授業があったけど、こっちの学校は普通校だからか流石にないらしい。その分、一般科目の授業が進んでいるようだ。
授業が一通り終わり、昼休み。私は弁当を持参しているから必要ないけれど、購買を利用する生徒たちが一斉に教室を飛び出して行った。きっと戦争が始まるのだろう。平和主義なので外野でのんびりと昼食をとることにする。
教室で食べている人もいれば、開放されている屋上や、外で食べている生徒もいる。この学校にはまるで植物園のような手入れされた中庭があるので、そこで食べる人も多いようだ。
私は特にそういった場所に行くつもりはなく、教室で一人弁当を開ける。
「お~、すみぽんはお弁当だ~」
「伊吹さんもお弁当ですか?」
「そだよ~、ここいーい?」
「はい、どうぞー」
どうぞーって伊吹さんが座った席はつい今しがた購買へ向かった千歳君の席なんだけど、まあ彼なら許してくれるだろう。
因みに佐々木さんや間桐君も教室にはいない。間桐君は財布を持って出て行ったので購買だろうけど、佐々木さんはお弁当持参で出て行ったので、どこか別のところで食べているのだろう。
教室に残って昼食をとっているのは十人前後くらいだった。二木も矢野……このクラスに矢野は二人いるので、ドラゴンの方としよう。彼と一緒に弁当を食べていた。ギャルとチャラ男だし付き合っているのかな?
「すみぽんのお弁当は手作り?」
「お母さんが朝作ってくれたんです。伊吹さんのは?」
「私は面倒だからさ~、うち家族も多いから、冷凍食品とか~、スーパーで売ってるできてる奴とか適当に詰めただけ~」
「妹さんと、あと弟さんもいるんでしたっけ?」
「そだよ~、あれ? 弟のこと言ったっけ~?」
「いえ、直接、ではないのですけど……」
朝起きたおち〇ち〇丸出し事件の時にちらっと言っていたのを聞いたわけだが、それを直接言っていいものやら。
因みにその事件を起こした二人組も購買へ向かっていったので教室にはいない。
「あ~、朝そういえばちらっと言ったかも~?」
「ええ、その時ですね」
「他にはお兄ちゃんと~、あとお姉ちゃんもいるよ~」
「五人兄弟ですか。多いですね」
「その分親も大変でさ~、下は二人ともまだ小さいから、たまに私も面倒見てるんだ~」
「伊吹さん偉いですね!」
「えっへん」
うちはどっちの家族も妹がいただけだからなあ。その二倍以上いるとなると、食事を用意するだけでかなり手間がかかりそうだ。
「そうだすみぽん~、チェイン交換しよ~」
チェインというのは「鎖で繋がるこのアプリ」のキャッチフレーズが闇深いなどと言われたSNSアプリの一種だ。スマホでの使用がメインだが、パソコンにも入れることができる。
グループを作ったり個人間でのやり取りをしたりなど、中々に便利で、スタンプなどを使ったやり取りは独特のセンスが光る。
残念なことに私はスマホをまだ持っていない。パソコンにも入っていないのは確認済みだ。
ツブヤイッターのアカウントならあったが、裏垢だし呟いている内容が黒すぎて人に見せられるものではないので削除済み。つまりはその類のアプリを一切入れていないこととなる。
「ごめんねー、私スマホ持ってなくて」
「そうなの~!? ガラケー?」
「いえ、携帯自体持っていないんです……」
「お~、今時珍しい~」
「明日お父さんと買いに行くので、来週の月曜日学校で交換しませんか?」
「いいよいいよ~!」
「わーい」
わーい。素の喜び声が出てしまった。
その後、自分の妹が如何に可愛いかとか、そんな何気ない会話を楽しみつつ昼食を終える。
時折二木が此方を睨んできているのが気になったが、平穏無事に一日を終えることができた。
放課後。昼食の時からの流れで伊吹さんと一緒に下校することになった。勿論里奈も一緒だ。
「先輩、今朝ぶりです!」
「お~、里奈ちゃんだ~すみぽんがめっちゃ語ってたよ~」
「ちょっと、伊吹さん……!」
「え!? 語ってたって何をですか? お姉ちゃん変なこと言ってないよね!?」
「い、言ってない……と思う。多分」
「多分ってなに!? えー、えー!」
里奈があたふたしてる。可愛い。
「大丈夫だよ~、里奈ちゃんが如何に可愛いか力説されたくらいで~」
「ちょっとお姉ちゃん!?」
「伊吹さんも弟さんと妹さんのこと力説してたじゃないですかー」
「だって可愛いは正義だし~」
二人して両サイドから里奈を囲んで愛でてあげる。
里奈はいやいやと言いつつも、それを拒否しようとはしないので、内心喜んでいるはず。
「それじゃあ私こっちだから~、また来週~」
「ありがーとおー、ありがーとおー、そしてーさよーならー」
「伊吹先輩、また来週、ですー! お姉ちゃんそれ何?」
「卒業式の歌風お別れの挨拶」
小学校の頃に卒業式で歌った歌がなんとなく出てきた。
伊吹さんと別れて里奈と帰宅。明日は土曜で休日だ。一昔前なら土曜も学校があったのだが、ゆとり万歳うちの学校は基本土曜日休みだぜ。
明日はお父さんと一緒にスマホ購入だー。女の子らしいやつって言ったらやっぱりピンクかな? でも耐久性は欲しい。昔ベッドから落として割ってしまったことがあるので、守備力は高いやつ。充電がすぐ切れるのも嫌だから、それでいて長持ちするやつ。うーん、自分のお金で買うわけじゃないから、父さんと要相談かな。
買ったらまずはチェインは入れて、パソコンの方にも後でチェイン入れておこう。