「クマオには他に好きな女がいる」。

この確信に至るまでのクマオの違和感を覚える言動は、ここに書ききれないぐらいある。

「うん?」私はそう思いながらも、敢えてそれを問いただすことまではしなかった。

クマオも相変わらず決定的なことは言わないが、3月21日までと日を決めたことで
安心したんだろう。私にも少し優しくなった。

ある日曜日。朝10時半ごろクマオから電話。

「親父のためにビーフシチューを作ろうかと思う」。

「じゃあ一緒に買い物に行こうか。うちで作ればいいじゃん。」

「いや、いいねん。自分で買い物行って作るから。」

なんかおかしいなと思った。

「じゃあ、今日はお出かけしないの?」

「いや。昼過ぎには出れるよ」。

結局、クマオから「今から出れるよ」と電話があったのは、午後3時半ごろだった。
迎えに来てくれたクマオの車に乗る。クマオの洋服からシチューの香りがした。

「あれ?洋服にシチューの匂いがついちゃってるよ。まさかこの服着たまま料理したの?」

クマオはおしゃれだ。いつも高級な洋服を着てるが、家ではユニクロの部屋着を着る。
そんなクマオが自宅で料理をするのにそんな外出着で作るわけがない。

クマオは言った。「なんでかわかんないけど、こんな服着たまま作ってた」。

「なんでかわかんない」。それほど不自然な言葉はない。

きっと女の家で二人でシチューを作り、それでセックスもして、こんな時間にまでなったんだ。
5時間も私は今か今かと待っていたんだ。
3月21日までは女と会わないでほしかったのに。

この段階では、クマオは私にはまだ女のことを白状していない。むしろ、隠している。
隠せているとでも思っているのだろうか。

悲しかった。

「クマオに他に好きな女がいる」

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