その夜、私の家でお鍋をした。
いつも通りの穏やかなひととき。
クマオは妙に落ち着いた様子で、冗談なんかも言っていた。
私は、昼間のクマオの言葉が頭から離れなかった。思い出すと吐きそうにさえなった。
お酒もすすみ、夜も更けたころ、私は考えていた提案をクマオに伝えることにした。
「マナブの結婚式、出てくれるよね?」
「うん。そのつもり」。
私は続けた。
「今日男女の関係じゃなくなったら恋人同士じゃないって言ったけど、もしそうなら
もうおしまいにしようか」。
「・・・・・・・」
「それでね、」私は明るく言った。
「マナブの結婚式には出てもらいたいから、それまではこの関係でいさせてほしいんだ」。
「3月21日までは、クマオさんの彼女は私、りこってことで」。
私は、ちょっとおどけて言ってみせた。
「・・・・・・・・」。
ほんの少しだけ期待していたクマオの「アホか。ずっと彼女でいてほしい。」という言葉はとうとうその日聞けなかった。クマオは何も言わず、ただただ号泣していた。
それは、私に、「ごめん。オレを許してくれ」という意味だ。
私は泣きじゃくるクマオを抱きしめた。
「今までありがとう。ほんとに楽しかった。でももうこれ以上クマオさんの人生の邪魔はできないよ。でも、少し猶予の期間がほしいから、3月21日までね」。
「・・・・・・・」
結局、その日、クマオからの決定的な言葉はなかった。
私は思った。これで、残りのわずかな期間、また恋人同士として濃密に過ごせると。
口にこそ出さなかったが、きっとこの思いはクマオに伝わっている。私はそう信じていた。
しかし、この思いが伝わっていなかったことを私はすぐに知ることになる。
次の週末、クマオはやはり私のことを邪険に扱った。
伝わるはずもなかったんだ。
その時のクマオは私に対する愛情はもちろん、熱意も誠意のかけらもなかった。
それほど女に夢中だったのだ。