その日の『報告会』は

小さな進展があった。



黒川がしたためた

三通のラブレターに

返事があったそうだ。



「返事は全てOKだった」



え?

何がOK?

よくあんな文章で

OKしたな……。



「でも黒川。

 相手は

 私の顔すら知らないのに、

 そんなに簡単に

 OKを出すもの

 なのでしょうか?」



「大丈夫だ。

 手紙と一緒に

 写真も入れておいた」





黒川に写真を手渡された。



桃と一緒に

ふざけて写っている写真。

桃の方が

可愛く大きく写っている……。



絶対、

桃と勘違いされているよね。


詐欺だよね。



「……で、

 何がOKなのでしょうか?」



「次の日曜日に、

 この屋敷に三人を招いた」



は?

え?

三人まとめて?



よく知りもしない三人の男に

ラブレターを送りつけ、

同じ日に自宅に招くなんて、


どれだけ

上から目線な女なんだ?



しかも、

桃目当てで来てみたら



『ジャーン!

 実はオカッパの方ダヨッ。

 へへッ』



みたいな感じで

私が登場して……。



ああッ!

悪い予感しかしない。





「何か意見のある者は?」





ありすぎる。


ありすぎて何も言えない。





「では、お嬢以外解散!」



「え?

 今日は怒られるような事は

 何もしていませんよ?

 何で?

 しかも白石、

 何故黒川の隣に

 座っているのですか?」



「今日から

 お嬢の説教に俺も参加します。

 担任ですからね」





え。嫌だ。



黒川に怒られている姿を

白石に見られるの?



それとも毒舌コンビが

寄ってたかって私を責める?



どちらにしても、

良いことが全くない。



「……で。

 今日は何で

 怒られるのでしょうか?」



「怒るというより、

 お嬢の進路について

 少し考えようと思ってな」



「進路……」



「お嬢が今通っている学園は、

 いくらエスカレーター式で

 大学まで行けるといっても、

 今のお嬢の成績では、

 正直、

 進学が難しいかもしれません」



「白石、先生みたい……」



「だから

 お嬢の担任をしているでしょう!」



「お前。

 いくら俺が勉強を見てやっても、

 ふざけるか居眠りするばかりで

 何も頭に入っていないしな」





それは……。



それは

黒川の心地よい低音ボイスのせいで、

眠くなってしまうからですよ。



「ですから

 黒川君以外の厳しい人間に

 勉強をみてもらう事にしました」



「黒川以外の厳しい人間?

 …………。白石?」



「はあ?

 俺が教えている時でも

 ヨダレを垂らしながら

 平気で居眠りしていますよね?」



それは……。



それは白石の説明が

無駄に長すぎるからですよ。



「じゃあ、青田?」



「青田君は

 お嬢のペースに乗せられて、

 途中から一緒に

 遊んでしまうと思います」



うん。

私もそんな気がする。



「まさかの赤井!」



「赤井君や桃は

 自分の勉強で大変なのに、

 お前で足を引っ張るわけには

 いかないだろう」



「じゃあ、誰ですか?」



「新しく家庭教師を雇った」



「えーッ!

 何故勝手に

 決めてしまうのですか?

 絶対嫌ですよ。

 今後、

 真面目に勉強しますから、

 家庭教師だけは止めてください」



見たいドラマが

見られなくなってしまう。



「私が……。

 私がこんなにピュアな

 良い少女に育ったのは、

 黒川や白石達のおかげなのですよ?

 いくら感謝しても

 足りないぐらいです。

 ……ううっ」



「…………」



黒川も白石も黙った。


よし、あともう一押し。



「ピュアな少女の私が

 赤の他人の誘惑に乗せられて

 闇の世界を知ってしまったら、

 どうするつもりですか?

 二度と私のピュアスマイルが

 見られなくなってしまいますよ?

 ……ううっ」



「お嬢のピュアスマイルなど

 見たくありませんから

 大丈夫です」



しまった。

作戦失敗。


白石に泣き落としは

効かなかった。



「ヘッ!

 無理やり勉強させても、

 大学なんか行きませんからねー」



「お前……。

 高校を卒業したら、

 どうするつもりだ?」



「アイドルになります!」



「…………」



黒川も白石も、

突っ込むことすら

出来ない程の衝撃を

受けているようだ。



「あッ!

 腹筋をシックスパックに

 割る時間だ!

 アイドルになるのって

 結構大変ですよねー。

 さらば!」



黒川と白石が呆然としている隙に、

私は部屋を出た。



ふー。


今日は何とか

逃げ切れたけれど……。



これから毎日、

黒川と白石との

三者面談があると思うと

気が重いな……。



次の日曜日のお見合いも嫌だし、

家庭教師も嫌だ。





ああ……、

私は悲しい籠の鳥。


不良少女になりたい……。

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