「……ちょっと、黒川。

 私の頭上で海老を剥くのを

 止めていただけませんか?」



「白石君、海老を剥いたよ」



黒川、無視するな。



「ありがとうございます。

 黒川君」



「何ですか?

 その関係は。

 何故、黒川が白石の為に

 海老を剥いているのですか?」



「白石君は

 海老で手が汚れるのが

 嫌いだからな」



「白石、

 どこの甘ったれ坊やですか!

 潔癖のくせに

 黒川が剥いた海老なら

 食べられるなんて、

 潔癖の風上にも置けませんな。

 黒川、私にも剥いてください」



「お前は

 潔癖でも何でもないだろう。

 自分で剥け」



「フッ。

 そう言うと思っていましたよ。

 栗きんとん、栗きんとん~」



「目の前でちょろちょろ動くな。

 目障りだ」



「ならば移動すればどうですか?

 数の子、数の子~」



「ああッ!

 何が食べたいんだ!

 取ってやるから

 大人しくしていろ!」



「では、

 カマボコと昆布とハムと……、

 あ。海老も剥いてください」



「黒川君、

 結局そうやって

 お嬢を甘やかすから

 駄目なのですよ」



「オホホホ。

 甘ったれ白石王子にだけは

 言われたくありませんな」



「ふー。

 そろそろ着物に

 着替えようかな」



私達が騒いでいると、

パジャマ姿の青田が

立ち上がった。



青田は今年も

マイペースだな。



「わーい!

 振り袖、振り袖ー!」



桃も嬉しそうに立ち上がる。



「え? 桃も着物を着るの?」



「うん。

 振り袖、可愛いじゃん!

 お嬢も一緒に着ようよ」



「いえ。

 私は遠慮しておきます」



「お嬢、
 たまには着物も良いよ。

 お嬢の着物も

 用意しているから、

 一緒に着よう」



「えー……」



渋々、

青田と桃に付いていく。



「お嬢も桃も

 着物向きの体型だから、

 絶対似合うと思うよ」



「青田……。

 それって、

 どういう意味ですか?」



「ふふ」



着付けは

地獄のひとときだった。



「ギエー!

 青田、

 これ以上締め上げたら

 肋骨が折れてしまいます」



「ハハハ! まだまだー」



「青田ー!

 後で餅が食べたいので、

 餅分の容量を

 空けておいて

 くださいィィィ」



「着物を着ている間ぐらい、

 食べ物の事から

 離れなさーい!」



…………。



今知った事実。

 
青田もかなりのドSだ。



「わあ!

 やっぱり青田。

 着物を着ると格好いいよね。

 桃も可愛い!

 男なのに、男なのに……」



「フフ。お嬢も可愛いよ。

 さあ、お披露目に行こう」



「え……。

 絶対貶されるから

 行きたくない」



「大丈夫だよ、お嬢。

 絶対褒めてくれるよ。

 自信持って」



「そ、そうかな……」



私は

青田と桃の後ろに隠れながら、

大広間に戻った。



「どう? 可愛い?」



桃が黒川達の前で

クルクル回る。



「ああ。

 桃は安定の可愛さだ。

 しかし、

 青田君の後ろの、

 扇子で顔を隠している奴が

 気になって仕方がない」



「アチキは平安生まれの

 平安育ちでやんすから、

 顔など見せぬでござんすよ」



「お前……。

 顔を見せずに

 十分笑わせてくれる

 その存在感は、

 一体何処から出てくるんだ?」



「見ないでくだされー。

 見ないでくだされー」



「見ないから、

 扇子を取ってくだされー」



「…………」



黒川の、

時々真顔で放つ冗談が怖い。



扇子で顔を隠して

登場するんじゃなかった……。


余計に皆の注目を集めて、

扇子を取るタイミングを

完全に

失ってしまったではないか……。



私は扇子で顔を隠したまま、

大広間の隅っこに正座した。



「さすが着物だな。

 お嬢が大人しくなった」



「だから

 アタイを見ないで

 くだされよー」



「お嬢、

 お年玉が

 要らないのですか?」



白石が

ポチ袋をチラチラ見せる。



「ハッ!

 お年玉ッ! 下せぇ!」



扇子を閉じて、

猛ダッシュで白石の元へ行く。



「ハハッ。

 天照大神みたいだな」



「天照大神?

 何ですか?」



「天照大神を知らないのか。

 …………。

 美人な神様だ」



美人……。


黒川、

説明が適当過ぎるな……。



少しは私の事を

褒めてくれているのかな?



この屋敷に来た時から、

赤井、桃、私の三人は、

黒川、白石、青田の大人組から

毎年お年玉を貰っている。



あげる側、貰う側が

正座で対面する。



「ありがたき幸せ!」



「お嬢、

 貰ったそばから

 中身の確認をするなよ」



「エッ?

 千円札一枚……。

 あ。白石のも……。

 お!

 青田だけ三千円!」



「青田君。

 あれほどお嬢のお年玉は

 千円にしようと

 決めておいたのに……。

 甘すぎますよ」



「ハハハ。良いじゃないか」



私の……。


私の知らない所で

悪の協定が結ばれている……。



「千円って!

 今時、小学生でも

 もっと貰っていますよ?」



「お嬢は

 無駄遣いしか

 しませんからね」



「無駄遣いなどしていません!

 ……と、いうか、

 この金額で無駄遣いなんか

 出来ません」



「この間、

 ハブとマングース柄の

 下着を買っていましたよね?」



「うわぁぁー!

 白石、

 何故皆の前で

 発表してしまうのですか?

 それにあれは

 ハブとマングース
 
 ではなくて、

 ラッコとウミヘビ

 ですよ?

 水族館十周年記念に

 限定販売された

 特別グッズなのです」



「どちらにしても

 悪趣味だと思います」



クッ!

ただのラッコ好きなのに。


ラッコグッズを

集めているだけなのに。


オホーツク海に行きたい!



「赤井、

 お前はいくら貰ったんだ!」



私は赤井に体当たりし、

赤井のポチ袋を奪った。



「あッ、一万円!

 白石も! 青田まで!」



「赤井くんや桃は

 部活などで物入りだから

 仕方がないだろう?」



「では、私も部活に入ります」



「何の部活だ?」



「お……、応援団?」



「……仕方がねーな」



黒川から

五百円を

追加で頂きました。


次いで、

白石からも五百円の追加。



金額アップ大成功!



……応援団?

何故私は

応援団と言ってしまったの?





私達は

毎年こんな感じで

お正月を過ごしている。



この後、

初詣で捻挫したり、

黒川餅地獄が

あったりするのだが、


話が長くなって

しまいそうなので、


それはまた別の機会に。



ちなみに今年の書き初めで

『不良少女』と書いたら、

黒川に微妙に訂正され、

今年の決意表明が

『良い少女』になってしまった。



 

『良い少女』って何だー!



新年早々、守れる気がしないよね!

閑話(お嬢と五人の執事)お正月編5

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