休日の朝、

白石はランドリールームにいた。





「白石ー。

 少しよろしいですか?」





「少しも良くありません」





「ぐ……」





「冗談です」





白石でも冗談を言うのか……。





「白石、

 今後自分の下着ぐらいは

 自分で洗濯しようかと
 
 思うのですが」





「それは感心ですね」





「洗濯機の使い方を

 教えていただけますか?」





「……。良いでしょう。

 まず、お嬢の下着を

 洗濯ネットに入れてください」





「ハイ。入れました」





「次に『お嬢・汚』と
 
 ラベリングされた

 洗濯機の中に、

 それを突っ込んでください。

 間違っても他の洗濯機には

 入れないでくださいね?

 絶対ですよ?」





こ……、怖い。



もし間違えてしまったら……。

一体私はどうなるの?





「では液体洗剤を、

 このキャップのラインまで入れ、

 洗濯機の蓋を閉めて

 全自動ボタンを押してください」





「こ……、こんな感じで

 よろしいでしょうか?」





「良いですよ」





白石が珍しく優しい。

優しいと不安になるのは

何故だろう……。





「あの……、白石先生。

 柔軟剤などは一緒に入れなくて

 良いのでしょうか?」



「洗濯機に柔軟剤用の投入口が

 ありますが、

 俺はそこが汚れるのが嫌いでね。

 洗濯からすすぎに切り替わる瞬間を

 見計らって、直接洗濯曹に

 流し込んでいます」





「見計らうって……。

 すすぎになるまで、

 ずっと待っているのですか?」





「当然です」





うわぁ……、

面倒臭いな……。





「この三十台の洗濯機が

 一斉に回っている音が聞こえるのが

 至福の時です」





白石の瞳が輝いている……。



本当に洗濯が好きなんだね。





「洗濯機が回っている間、

 白石は何をしているのですか?」





「掃除をしたり、

 染み抜きをしたり、

 読書をしたり……。

 お嬢が小さい頃は、

 お嬢と一緒に遊んでいましたね」





「私と?」





「…………。

 覚えていないのですね。

 しりとりをしたり、

 絵を描いて遊んでいたのですが」





白石が私と遊んでくれていたなんて、

全く想像がつかない……。





「あ。そろそろ黒川君の洗濯機に

 柔軟剤を入れる頃ですね」





白石が洗濯機の上に

備え付けられた棚から

柔軟剤を取り出す。



「白石。

 先程、色んな種類のパッケージが

 見えたのですが」



「ああ。

 皆、柔軟剤の香りに

 好みがありましてね。

 それぞれ、お気に入りの柔軟剤を

 入れているのですよ。

 因みにこれは黒川君のお気に入り」





白石が珍しく、

説明しながら見せてくれた。





『地中海の太陽の香り』





え?



黒川が地中海?

黒川が太陽?





「あの……。

 『暗黒宇宙の香り』は

 無かったのでしょうか?」





「そんなのあるわけないでしょう?

 でも期間限定で販売していたら、

 試してみたくなるネーミングですね」





白石が

笑いながら匂いを嗅がせてくれた。



柑橘系の爽やかな香り。

黒川っぽい香りだな。





「これが青田君の」





『森羅万象の香り』





意味不明。



匂いは、

青田が着物を着ている時に

よく焚いている、

お香の香りに似ている。



ムスク系の大人の香りで、

青田らしいな。





「これは桃のお気に入り」





『ハッピースプリングストロベリー』





あ。

フローラルとフルーツの甘い香りだ。

さすが桃ですな。





「で、赤井君は、

 とにかく消臭にこだわっている」





『脱臭消臭徹底ストロング!』





赤井らしいな……。





「これは俺が気に入っている香り」





『石鹸の香り』





非常にシンプル!





「……で。

 私など

 一度も柔軟剤の香りの希望を

 聞かれた事がないのですが」





「ああ……。

 お嬢は面倒だから

 俺と一緒で良いと思って。

 今の香りが嫌なら

 別の柔軟剤に変えますよ?」





「いえ。

 この石鹸の香り、大好きです。

 白石とお揃いの香りだったのですね」





「べ、別に……、

 お揃いにしたくて

 したわけではありませんよ?

 本当に選ぶのが面倒だったから。

 ただそれだけです」





「ハイハイ。

 分かっていますよー。

 あ。そろそろ私の洗濯機に

 柔軟剤を入れても良いですか?」





「やはり洗濯は俺がやりますから、

 お嬢は勉強をしてください!

 来週、

 化学の小テストがありますからね!」





白石に、

甘くていい香りが漂う

ランドリールームから

追い出されてしまった。





ランドリールームでのやり取りを

少し懐かしく感じたのは何故だろう。





白石と

しりとりやお絵描きをしていた頃が

あったなんて。





思い出せないのが悔しいな。

閑話(白石とお嬢の日常)その4

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