青田と一緒にキッチンへ向かうと、


カウンターの上に

蕎麦の入ったザルと

出汁が入った鍋、

具材が乗った皿が置かれていた。



あ、キャラクターカマボコ。

可愛い。



「鍋に入った出汁を温めて、

 蕎麦を入れればいいのかな」



「青田。少し待って下さい」



私はキッチンの戸棚を漁った。



「お。ありましたー!」



私は蓋の部分に

マジックで『黒川』と書かれた

カップラーメンを発見し、

青田に見せた。



「これ、

 黒川お気に入りの

 カップラーメンですよ。

 一個四百円もする

 セレブなカップラーメン。

 これを勝手に食べてやります」



「え……。

 そんな事をしたら

 新年早々、

 黒川君に怒られるよ?」



「黒川の説教など

 怖くありませんよ。

 むしろ、

 このお気に入りセレブラーメンを

 私に食べられ、

 悲しみに打ち拉がれる

 黒川の姿を見てみたい」



「あまり乗り気がしないな……」



「いいです。

 青田は

 黒川がギャフンと言う姿を

 見ているだけで構いませんから。

 フフフ。楽しみー!」



「そもそも年越しなのに、

 何故ラーメンを食べるの?」



青田は

口では反対しながらも、

ヤカンで沸かした湯を

カップラーメンに注いでくれた。



「私の来年の目標は

 『不良少女になる』に決めました。

 まず手始めに

 年越しに蕎麦を食べず、

 あえてラーメンを食べます。

 アウトローだと思いませんか?」



「随分、可愛いアウトローだね」



「こんなの序の口ですよ?

 ゆくゆくは

 耳にピアスを開けたり、

 バギーに乗って

 庭中を踏み荒らしたり……」



ハッ!

青田の顔色が変わった。


庭は青田のテリトリーだから

荒らされたくないのね。



「う……、嘘です。

 冗談です。

 バギーなど乗りませんから」



「フフ。分かっているよ。

 あと、お嬢の髪は

 サラサラで、とても綺麗な

 栗色をしているから、

 パーマやヘアカラーはしないでね」



青田が私の髪を撫でながら言った。



庭荒らしとパーマと

ヘアカラー以外なら

何をしても構わないのか?



青田の悪の基準が分からぬ。



「さぁ、

 そろそろ食べ頃じゃないかな。

 向こうの部屋へ持っていこう」



「うん」



テレビは丁度、

歌合戦の結果発表をしていた。



「白白白白。

 わーい。やっぱり白でした」



私は『歌合戦戦略ノート』に

結果を書き込んだ。



年越しのカウントダウンが始まる。



「あーッ!
 
 年越しラーメンが間に合わない!」



慌てて

黒川のセレブラーメンを掻き込む。



「ぐはッ! ゲホッ!」



「お嬢。

 慌てて食べなくていいよ」



「でも、

 年内に食べきらなければ……。

 ゴハッ!」



「いやいや。

 地域によっては

 年明けに食べる所もあるから

 大丈夫だよ」



「そ……、そうなの?

 げっふぁ!」



咳き込んで

畳の上で悶えていると、


黒川が目を覚ました。



「…………何をしているんだ?」



「く……、黒川。ゲッホ!

 こ……、このラーメンを……、

 ゴホッ、ゴホッ……。

 ご覧なさい……。ゲッホ!

 黒川の

 セレブラーメンでズエッハよ!」



「お前……。大丈夫か?」



黒川が私の背中を擦る。



敵に心配されるとは、

一生の不覚!



「く……、黒川。

 ゲッホゲッホ……。

 私の事は放っておいて。

 それより、

 黒川の大事な

 セレブラーメンを

 私が勝手に頂戴しているのですよ?

 ゴッホ。

 ギャフンと言ってみたら

 どうですか? ゴッフン!」



「ギャフン」



黒川が真顔で言った。



……恥ずかしくないの?



いや。


こんな恥ずかしいセリフを

聞いてしまった私の方が

恥ずかしいわ!



「ところでお嬢。

 そのラーメン、

 賞味期限がかなり前に

 切れていて

 捨てようと思っていたやつだが、

 味は大丈夫だったか?」



「あ。やはりそうでしたか……。

 ゲッホゲッホ!

 セレブラーメンらしからぬ

 酸味で、先程から

 咳き込みまくっているのは、

 そのせいですね。グハッ!」



「確認してから食えよ……」



「く……、苦しい……」



私が悶え苦しんでいる間に

カウントダウンは終わり、

年が明けてしまった。




不良少女の道のりは険しい……。

閑話(お嬢と五人の執事)お正月編3

facebook twitter
pagetop