結局、夫は私の言う通り部屋に上がることになりました。
これまで、何度も旅行して。
いくつものドアを開けて…
それでも、
今日ほどに重く
開けることが辛かったドアはありません。
夫はベッドではなく、ソファでもなく、
傍にあった小さなイスに腰掛けました。
「本当に申し訳ない。でも、これは夫婦喧嘩じゃない。だから、こういう事されると困るんだよ。
死んだり…って。本当に考えたから。やめてほしい。もう家を飛び出したりって、しないと約束してほしい」
「何言ってるの?申し訳ないじゃないよ。
あなたは準備してたかもしれないけど。
私は無防備で。
それでいきなり別れを切り出されても。
私の方がよっぽど困る。
私達31年も一緒にやってきたんだから。
あの日、私があなたのプライドを傷つけてしまったのなら謝ります。ごめんなさい。
戻るつもりだったって言ったじゃない。
ちゃんと戻ってよ。約束守って。
そんな無責任な人じゃなかったじゃない。
それなのに、いきなり同棲始めちゃって
おかしいよ。そんな風に逃げるの。」
勝手に涙が溢れて止まりません。
「悪いのはこっちだから、お前は謝る必要なんかない。落ち度はないんだから。
こちらこそ申し訳ない。
戻るつもりだったよ。
でも、もう気が変わったんだ。
もう家には帰れない。
それに、今は女のことも好きだし。
それから、
同棲はしていない。俺のマンションも解約するつもりはない。今後もあそこに住むよ。」
どこまでが本当で、どこからが嘘かわかりません。
ただわかった事は、
夫の意思は固く変えるつもりもないという事です。