夫が朝までここで過ごす…

私はシャワーを浴び髪を洗うことにしました。
一日の汚れと疲れをまとったまま、眠りたくはなかったから。

私にはきっと嫉妬と悲しみの匂いが染みついてる…
見慣れないシャンプーにボディソープ。

それでも
すべて、さっぱり洗い流したかった。

夫は綺麗好きの潔癖性。
それでも、この部屋ではシャワーは浴びません。
あくまでも、呼ばれたから来ているお客さんの姿勢は崩しません。

夫の頑なさが私を傷つけます。

ドライヤーで髪を乾かしていると、
夫はミネラルウォーターを口にして、そのあと
もう一方の方のベッドに入りました。
ホテル備え付けのバスローブも室内着も手に取る事もなく…

まるで…他人。
昔から他人だったかのように…

「悲しい。辛い。ハグしてほしい」
「わかった。こっちにおいで」

夫が少し身体をずらして私の居場所を作ってくれました。
ベッドの中、夫の胸で少し泣きました。
夫はずっと私の背中をトントンしてくれました。
そして、ずっと朝まで手をつないでいました。
懐かしい夫の胸は、やっぱりよその香りがしました。

すぐに寝てしまうだろうと思っていましたが、
夫は話し始めました。

他愛もないこと。
子供達が幼かった頃のこと。


まるで、いつものランチで
私が話した日常のように。

あの日と変わらぬ声とトーンで。

朝まで、結局私達は一睡もしませんでした。

「6時半になったら行っちゃうんだね。」

「うん。」

「愛人て、こんな気持ちなのかな」

夫は答えませんでした。

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