一緒に暮らし始めた時、連れ子たちはもう思春期やら反抗期やらに差し掛かった、むちゃくちゃむずかしい年頃の小学生でした。
ダンナと結婚する前から連れ子たちは、私のことを
『ピロコさん』
と呼んでくれていました。
「さん付け」なんて丁寧でいいじゃない
と思うかもしれないけれど、
『ピロコさん』って、なんかすげー他人行儀なわけよ。
何だったら連れ子たち、ダンナの普通の女友達のことなら
「〇〇ちゃんラブ」
とか
「△△ちゃんママ」
とか、もっと親みのこもった可愛らしい呼び方してるのに。
私に関しては、出会ったその日から
『ピロコさん』以上でも
『ピロコさん』以下でもなく
そこには難攻不落の距離感がしっかりと保たれている感じが否めませんでした。
もしかしたら最初から
「こいつ、まさかパパとつきあってるのか?」
と何かを敏感に察知して警戒心を持たれていたのかもしれません。
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結婚してからも、連れ子たちは私を一貫して
『ピロコさん』
と呼び続けていました。
とはいえ、
私もまた彼女たちに、「お母さん」とか「ママ」と呼んで欲しいなんておこがましいことは
口が裂けても言えなかったし、
そんなこと一生言うつもりもなかったし、
実際にそう呼んで欲しいとも思ってなかったんです。
だって、
ダンナと私が結婚したのは、完全に大人の都合。
連れ子たちにしてみれば、「母親になって欲しい」なんて1ミリも思っていないところに後妻がきたわけだから、
そんな女に突然、上から
「今日からあなたたちのお母さんです。どうぞママとお呼びなさいニヒヒ」
なんて言われたら、
ちょっとした殺意くらい生まれそうですよね。
だから、呼び方に関しては私は完全に連れ子たちにおまかせしていました。
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一緒に暮らし始めてちょうど一年くらいたった頃、
私の友達がアイスをたくさん買って家に遊びに来てくれました。
夜にそのアイスをみんなで食べようと言うことになり、
連れ子Bちゃん(下の子)が冷凍庫を開けてアイスを選び始めました。
そしてそこにいるみんなに、どのアイスにするか一人一人聞いてくれたんです。
「パパはどれにする〜?」
「Aちゃん(上の子)はどれがいい?」
「ばあば(遠方から遊びに来ていた義母)はどれ?」
そしてどんどんアイスを配っていき、私の順番になった時のことでした。
「ママはどれにしますか」(ちょっと小声)
…
…
ポーン!!!!!!
い、今、「ママ」って言った?
…
ほんの一瞬だったけど、
私とダンナと義母の中で時が止まりました。
今たしかに、私のことママって
呼んでくれた。
ママって呼んでくれた…(歓喜)
きっとBちゃんもめちゃくちゃ勇気を振り絞って呼んでくれたんだと思う。
だって「ママ」の後に続く言葉が
「どれにしますか」
って謎の敬語になってたもん
でもここで大人たちが
「ママって呼んだ!!!!」
「クララが立った!!!!」
って騒ぎ立てたりしたら、
せっかく呼んでくれた気持ちを恥ずかしさで踏みにじってしまうかもしれない。
そんなことになったら、
もう呼んでくれなくなっちゃうかもしれない!!
だからみんな、その場はものすごく普通に、
ママって呼んでくれたことには敢えてふれずに、アイスを食べてわいわい楽しく過ごしました。
それからずっとBちゃんは、私のことをママと呼んでくれています。
初めてBちゃんが私をママと呼んでくれた日の夜、
みんなが寝静まってからダンナは一人でお酒を飲み始め、
「さっき、Bがピロコをママって呼んだね。オレもう嬉しくて嬉しくてさぁ。。」
と、ボロボロ涙を流して喜んでくれました。
連れ子と継母の間にはどうしても、いつも絶妙な距離感があるけれど、
それでも私たちならうまくやっていける、
と思えた瞬間でした。