それから数日間はボーっとして過ごしていました。
腕に残った注射痕。何となく続く体のダルさ。
「ヤバい薬を使われたんだな」と思いました。
快楽はもちろんあったのですが、それ以上に心臓が止まったような感覚と(実際止まった瞬間はあったのかもしれません)、飛び降りようとした恐怖で体が震えました。
「絶対あんなもの使わない」と思った瞬間でしたね。
で、数日経って、何となく元気になってきた時、また誰かと遊ぼうと思って出会い系サイトを使ったんです。
連絡を取り合って、新宿で合流して。何か食べに行こうかという話になった時、
「ちょっとお兄さん達」
・・・。
職質されました。
「え、何で?」と思ったのですが、急なことで驚いて言葉が出ません。
ヤバい・・・。
腕にある注射痕見られたら・・・。
そう思うのですが、職質をされるのは人生で初めての経験だったので何をどうすればいいのか分かりません。
身分証を見せたり話を聞かれたりして、ドキドキしているうちに、警官が言いました。
「ちょっと腕見せてくれるかな?」
・・・。
「嫌」とは言えず、素直に見せました。
すると・・・。
「ねぇ、これ何?」
バレました。
「いや、あの・・・」と言っているうちに、みるみる警官の顔つきが険しくなっていきます。
「ねぇ、何かアブナイことしたんじゃないの?」
「何かやったならハッキリ言ってよ」
「あと、ちょっと尿検査に付き合ってもらうからね」
・・・。
完全にヤバいです。
もう頭の中は大パニックです。
「実は相手に変な薬を使われて」なんて言っても信じてもらえないに決まっています。
そこで、逃げることにしました。
「いや、忙しいから無理です」とか「別にこれ、強制じゃないんでしょ」とか言って無理に逃げようとするんですが、そうやってかたくなに尿検査を拒否しても警官はこっちが進もうとする道に立ちふさがってきます。
しまいには「うるさいなぁ!」と半分くらいキレた状態になったのですが、こうなってくると警官のボルテージも上がってきます。
しかもどこから集まってきたのか分からないのですが、気が付くと10分程度の間に10人くらいの警官が周りを取り囲んでいます。
東京、恐るべし。
この感覚はアブナイことをしていて職質を食らった人にしか分からないと思うのですが、めちゃくちゃパニックになります。
「人生終わった」とか「とにかく逃げないと」とか色々なことが頭の中を駆け巡るのですが、警察はそんな甘くありません。こうなったらとことん逃がしてくれません。
しまいには身長190センチ、体重120キロ、グラサンを頭にかけて金色のネックレスをした「お前、どうみてもヤ〇ザだろ」みたいな奴が現れました。
「おう、新宿署の刑事だけどよ。ションベン出さねぇんだって?何もねぇならさ、さっさと行ってよ、さっさと出して帰ろうぜ。な?」
睨まれながらそう言われました。
「いやいやいやアンタ刑事じゃなくてそっちの人だろ」とか「え、警察ってヤ〇ザ雇ってるの?」とか思ったりして、その時点でションベン漏れそうでした。
まぁマル暴でしょうね。舐められないようにそんな恰好してたんだと思います。
で、それで心が折れて、パトカーに乗せられて警察署へ。
でも警察署に着いてもまだ拒否してました。
刑事達に「お前タバコ吸うか?とりあえず吸いながらちょっと話そうや」と言われ、タバコを吸いながら話すことに。
この時はまだ警察所内でもタバコが吸えたんです。留置場でも。
タバコを吸いながら、「なぁ、お前と一緒にいた兄ちゃんは尿検査素直にして、何も出なくて帰ったぞ。お前、何かあるなら言ってみろよ」と刑事に言われました。
そうか、あの人はもう帰ったのか・・・。
そう思うのですが、「言っても信じてくれないだろう」と思って、上手く言葉が出てきません。
こんな調子でずっと黙っている自分にしびれを切らしたのか、刑事がこんなことを言い始めました。
「あのな、警察って色々な手段持ってるんだよ。その気になれば病院に強制的に連れてって尿を取ることもできんだよ。カテーテル入れてな。痛ぇぞ?そんなことするくらいなら、さっさと自分で出した方がいいと俺は思うけどな」
・・・。
ということで尿検査に応じることにしました。
「任意での提出」なんてよくマスコミで報道されたりしますけど、実際の現場はこんな感じです。「任意同行に応じて」も上記のような感じで、逃がしてくれなくて半ば強制的に連れられて・・・みたいなパターンも多いですね。
別にそれを悪く言うつもりはないのですが、まぁ、警察って怖いよということで。
で、尿検査の結果は陽性。
「やっぱアレは覚せい剤だったのか・・・」
薄々気づいてましたが、現実に直面するともうショックでショックで。
まさか自分が覚せい剤を使うことになるなんて思ってもみなかったし、捕まるなんて思いもしなかったし。
陽性と分かってからの刑事達の変貌ぶりも凄かったですね。
「お前!どっから買った!」
「言え!さっさと吐け!」
「バァン!」と机を叩きながら次々に怒声を浴びせて来る刑事達にもうこっちはパニックです。
こんな状況で素直に「使われました」なんて言っても信じてくれないだろ・・・。
恐怖とショックでだんまりの自分。それを見て刑事も仕方ないなと思ったのか、とりあえず逮捕状だけ見せられて、逮捕という形になりました。
その後は指紋を取ったり、色々書類を書いたりしてました。
と、そうこうしているうちに夜中の3時か4時頃に。この頃には精神的にも肉体的にもクタクタ。「早く寝たい・・・」と思っていました。
しかし、「みんなが寝てる時に留置場を開くと暴れる奴がいるんだよ。だから朝まで待っててくれな」と言われ、取調室で待たされることに。
クタクタの頭で、「これからどうなるんだろう・・・」と呆然としながら取調室で過ごしていました。