集会所 バイク置き場
達也、自分のバイクに股がり、アクセルをふかす。
ブンブンブォーンと大きな音が鳴り響く。
「いい音するぜぇ、さすが俺の愛車、【永吉】だ」
バイクの鍵のキーホルダーに笑顔の七海と達也の
プリクラが貼ってある。
(お揃いのスカジャンにリーゼント)
リーゼントを整えながら、機嫌良く歌いだす達也。
「こんに~ちは赤ちゃん、私がパ~パよ~
(振り返り)みんな、よく聞け!
俺達【横須賀犬】(よこすかどっぐ)は、
今日限りで解散だ!!
それを記念して、今夜は俺が特攻役をやる!
最高の夜にしたけりゃ、黙って俺について来いっ!!」
興奮して叫ぶ族員達
「おおぉぉっっー!」
達也、挑発的な笑みを浮かべ、爆音と共に猛発進する。
達也、大通りを蛇行しながら、時々後ろを振り返る。
数十台のバイクが爆音を鳴らしながら、達也の後を追いかける。
パラリラパラリラ~
達也の目の前に交差点が見えてくる。
信号は黄色から赤に変わる寸前。
達也、スピードを上げて、交差点に切り込む。
右からハイビームのセダンが達也のバイクに突っ込んでくる。
クラクションが高らかに鳴り響く。
ハイビームに目が眩む達也。
セダンが達也のバイクに衝突した瞬間、達也の体が宙に浮かぶ。
着地寸前で、左から交差点に突っ込んできたバンに跳ねられ、再び宙に舞い上がる。
更に地面に落下する寸前、バンの後ろから
突っ込んできたスポーツカーに跳ねられる。
羽つきのように何度も跳ね上げられた挙句、
最後には後方から来た、トラックに|轢《ヒ》かれ、ペシャンコになる。
達也の額から血がどっと流れ出す。
セダンの男、慌てて車から降り、血だらけの達也を見てオロオロする。
達也の後ろで走っていた大勢の族員達が、
バイクを投げ捨て、慌てて達也に駆け寄る。
「アニキっ!!」
「おいっ!救急車呼べっ!!」
族員 、ズボンのポケットから、慌てて携帯を取り出し、救急車を呼ぶ。
「アニキっ!!しっかりしてくれっ!!」
「…なな…み」
達也、族員達に囲まれたまま、視界が徐々に霞んでいく。
病院 達也の病室
ボコボコに腫れた顔で深く眠る、達也。
全身包帯でぐるぐるに巻かれ、ギプスの右足は吊り上げられている。
側で、七海が心配そうに、達也の手を握っている。
心拍数を示す波線が弱く波打っている。
息を切らし、じんが入ってくる。
「達也さんっ!!」
達也に駆け寄り、七海に謝る。
達也の手を握ったまま、振り返る七海。
「すみませんっ!!俺が特攻役を譲ってしまったばっかりに、達也さんがこんな目に…」
じんの目に涙が溢れる。
「気にしないで。どうせ、解散記念だから最後に俺が特攻やる!!なんて意気込んだんでしょう?…本当、バカよね…」
「すみませんっ!」
「じん君が謝る事ないから…」
じん、不安そうに達也の顔を見つめる。
「…達也さん」
「今夜が、峠って…」
七海、涙ぐむ。
じん、俯いたまま、無言になり、見上げた
瞬間、猪木の顔に|変貌《ヘンボウ》している。
そして、泣きながら、達也の耳元で猪木風に
「元気ですかぁっー!」と、大声で叫ぶ。
看護師長が慌てて病室に入ってきて、じんを怒鳴る。
「静かにして下さい!!他の患者さんに迷惑でしょ!」
じん、看護師長に制止されながらも、
もう一度、達也に向かって、泣きながら何度も叫ぶ。
「元気ですかぁーっ!!
達也さん!元気ですかぁっー!!」
達也の、左手の人差し指が、ピクリと動く。
七海、達也の異変に気づく。
「今、指…動いた?」
じん、はっとする。
七海、じんと目を合わせ、交互に叫ぶ。
「元気ですかぁっー!!」
「元気ですかぁっー!!」
「元気ですかぁっー!!」
「ちょ、ちょっとあなた達、一体なんなのっ⁈警察呼びますよ!」
看護師長に怒なられても、叫ぶ事をやめない二人。
そこへ、達也の弟の竜二が慌てて入ってくる。
「兄貴っ!」
竜二、その場の空気を読んで一緒に叫ぶ。
「元気ですかっー!!」
「元気ですかっー!!」
「元気ですかっー!!」
「あなた達!いい加減にしなさい!先生を呼びますからね!」
看護師長、パニックになり、慌てて部屋を出て行く。
達也の口がパクパクしている。
「達也っ!!」
「兄貴っ!!」
「達也さんっ!!」
七海、達也の口元に耳を近づける。
達也、うっすら目を開く。
「…じゃ…ね」
「なんて言った?…聞こえない」
達也、口をパクパクさせる。
七海の顔が般若のように変貌し、達也に向かって怒鳴る。
「おいコラッ!聞こえねーんだよっ!タコっ!」
達也、パッと目を見開き、ベッドから、
スクッと上半身をおこし、渾身の力を込めて叫ぶ。
「元気なワケ、ねぇだろがあぁぁっ!!」
達也の額に血管が浮き上がり、顔がピクピクしている。
「帰ってきたーっ!!」
七海とじんと竜二、3人で手を繋ぎ、バンザイをしながら、ピョンピョン飛び跳ねる。
「…し、…しぬ」
力付きて、そのまま仰向けにパタンと倒れる
達也。瀕死の状態で、サイドテーブルに置かれたペットボトルを、震えながら力なく指差す。
「どうしたの、達也?」
「み…ず…」
「水が欲しいの?分かった!」
七海がペットボトルの蓋を開けて、
ストローを差し、達也の口に加えるが、噛む力もなく、口からストローが外れる。
「(七海、再び般若の顔で)飲まんかいっ!!」
七海、素の顔に戻り、慌ててペットボトルからストローを抜き取り、自分の口に水を溜め、そのまま口移しで達也に水を飲ませる。
達也、ゴクリと水を飲み込む。
「…生き返った…」
竜二が口笛をヒューっと鳴らし、七海に合図する。照れながら、七海達に背中を向ける、じん。猪木の顔のまま、涙ぐむ。