アルハイムから引き継いだ初日からホリーナイトトレインは動き出す。
トレインは常世のある場所に停車し、死者を乗せる。輪廻を抜け出している魂たちは、閻魔大王に仕分けられるわけではないから、このトレインに乗ってやがて星になる。(ちなみに輪廻を抜け出すのは五回以上生まれ変わったか、自分で望んだ魂だけだ)
トレインが空へ向かって発車すると常世には永遠に戻れなくなる。だから、大体のものは最後に常世に自分の声でメッセージを伝えるそうだ。そのメッセージは常世のものに届いているのかはその魂たちにも私たちにもわからない。

そうこうしているうちにトレインが常世に着いた。今日の乗車魂数は…四十七。輪廻を抜け出しているかどうかは頭に輪っか(天使の輪っかのようなもの)があるかどうかで判断する。今日は手違いはなさそうだ。
あとは無事に夜空に届けるだけ…アルハイムの言うように、多くの魂が常世に向かって声を出している。が、私はある人間の若い女が目に留まった。彼女は常世に向かって声を出さず、ただただ車窓から見える常世を見つめて泣いているだけだった。

「どうして泣いているの、常世に最後のメッセージを送らないのか?」と聞くと、
「車掌さん…私はもう言い残すことはないのです。」と答えた。
「では、なぜ泣いているのだ?」
「長年苦しんでいたことが…今解決されて…嬉しくて泣いているのでございます。」

話を聞くと、彼女はサラと言う名前でこの前まで社長令嬢として生きていたそうだ。
「私には歳の近い妹がいまして…その子は私と違って出来が良かったのです。そのせいでいつも私にはひどい当たりで…それに耐えかねて生まれ変わる時に教えていただいた“輪廻から抜け出す“という決断に至りました…」
その決断をしてからサラは少しでも爪痕を残そうと勉学に励んだが、やはり家族から認められることはなく、結局十八歳という若さで病死ーそしてここにいる。

「結局私の最後の人生はあまり良くないように終わりました。でもさっき常世を見たら…!私の葬式をしていたのです。それだけでも嬉しかったのですがお父様が“よく頑張った”と私の棺に向かって言ってくださって…!それが嬉しくて…」と彼女は言っていた。

エベレッタにはわからなかった。もとい、天使には生物ー特に人間ーのように豊かな感情はなく天使を長年続けてきたエベレッタには余計にわからなかった。

なぜ、彼女は彼女自身を大切に扱わなかった人にそんな七文字の言葉をかけられただけで嬉しいと感じたのだろうか。
そういえば、とエベレッタは思い出す。アルハイムはエベレッタに比べて人間味があった。アルハイムは覇気からしてエベレッタより先輩だ。なのにどうしてー

「車掌さん…車掌さん…エベレッタ様!」ハッとエベレッタが我に返るともう夜空へトレインが突入していた。
「すまない、そろそろ着く頃だ…心の準備だけしておいてくれ…」エベレッタがいうとサラは寂しそうに景色を眺める。
「常世から離れて寂しいか?」
「そうですね…でも私はお父様に認めてもらえたサラ・イルホルム嬢です!きっと誰よりも光り輝く星になります!」

夜空に着くと乗客たちは次々に星へと変わる。肉眼で見えるような光を放つものや、天の川の一部になるもの…様々あるがサラの星はどれよりも輝いていて星座の一等星にも見劣りしない程だったー

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