「香穂、そろそろお別れのときがきたみたい」と咲さんが言う。
「お別れって……一緒にはるの荘に帰りましょうよ」
 首を振る咲さん。
「蓮夜、あなたを人間にするわ。春雷がね」
「は!?なに言って」
「あなた、たまにこっちに来てはリクと酒飲みながら愚痴こぼしてるんだって?きいたわよ。人間になれたらなって」
「え、蓮夜さんそんなこと思ってたんですか!?」
「リク」と睨む蓮夜さんから目を逸らすリクさん。
「蓮夜さん、人間になりたいってつまり……」
「香穂と一緒に歳をとりたいんだよ」と蓮夜さんが少々顔を赤らめて言う。
 ひええええ!これって告白だよね。

「その願い、春雷が叶えるわ」と咲さん。
「ちょっと待て!春雷が叶えるって、じゃあ春雷はどうなるんだ」
「とうちゃん」と春雷君が蓮夜さんに近寄る。
「僕、そろそろかあちゃんのとこ帰らなくちゃ」
「春雷、なに言って」
 春雷君は蓮夜さんと額をくっつけて「300年、僕幸せだったよ。ありがとう」と言い光り出す。すると蓮夜の耳と尻尾がみるみる消えていった。
 「春雷、とうちゃんも幸せだったぞ」と涙ぐむ蓮夜さん。
「かほ、僕のこと大事にしてくれてありがとう」
 涙が溢れてきた。そんな私の頭を撫でる春雷君。
「リク、咲、奏、マキノ、いつも守ってくれてありがとう」そう言うと春雷君は天高く上って金色の光と共に消えた。
 皆、それぞれの思いを胸に見届けた。

「香穂さん、現世に戻しますね」とマキノさん。
「待ってください!もうみんなと会えないんですか?」
「ええ、おそらく」
 なにか伝えたいことはないか、あれこれ考えても急な別れなんて想像もしてなかったからなにも思いつかない。
 あ!
「奏さん、バイト先には私からうまく言っておきますね」
「あ、ああ、頼む」
「香穂、恭蔵さんによろしく言っておいてくれ」とリクさん。
「私からもお願いします」とマキノさん。
「わかりました!」
「短い間だったけどお世話になったわ。私からもお願い」と咲さん。
「俺からも」と奏さん。

 マキノさんが紫色の渦を出す。
 ああ、これでほんとにさよならなんだな。
「どうかお幸せに」と手を握るマキノさん。
 元気でな!頑張れよ!とみんなのあたたかな声で見送られて私と蓮夜さんははるの荘へ帰った。

 蓮夜さんの部屋の壁に手をあてて一応確認してみる。
 もう通り抜けられなくなっていた。
 本当にもうあっちに行くことはないんだな。
 すぐおじさんに事のいきさつを伝えに行った。

 そして一ヶ月が経った頃。
 仕事から帰って階段を上ろうとしたその時「ひいいいいいいい!」とおじさんの悲鳴が聞こえた。
 何事!と、おじさんの部屋をノックすると血相変えて、これこれこれ!と額に入った絵を見せてきた。
「いきなり何もないところからぬーっと出てきたんだよ!」
 見てみるとそこには――。

 私は急いで自分の部屋へ走った。
「蓮夜さん!これ見てください!これって!」
 夕食を作ってた蓮夜さんは、ん?と絵を見ると目の色変えて驚いた。
 そこには二匹の白狐の絵が描かれていたのだ。それは親子にも見えた。ううん、間違いなく親子だ。
 絵の裏には『Frome R&M』リクさんとマキノさんからだ!
 この絵は春紅さんと春雷君だろう。仲睦まじく寄り添っている。
 春雷君、お母さんと一緒に過ごしてるんだ。
「おそらくマキノが最後の力を振り絞ってこの絵を届けてくれたんだな」
「後でおじさんに説明しときますね」
 
 私たちはその絵を後生大事にとっておいた。

27話 別れのとき 二人からのメッセージ

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