もののけ界上空を飛んでる最中、香穂と春雷を背にしてマキノは咲とのことを思い返してした。
「ここ数ヶ月向こうで香穂たちと生活してて思ったの」
咲がマキノの隣で俯いて言う。
「蓮夜、人間になりたいんじゃないかな。春雷はそのことに気づいてるんじゃないかな。300年も一緒にいるんですもの。子供だけど父親の異変には敏感よ。あの子」
マキノは黙ってきいていた。
「香穂は蓮夜のこと好きじゃない?今はそばにいられれば十分って感じね。見てればわかるわ。でも3人共我慢してこのまま平穏な生活が続くかしら。きっとどこかで歯車が狂うわ」
「どうされるのですか?」
「私決めたの。蓮夜を人間にする」
マキノが目を見開いて驚く。
「このことはマキノだけに打ち明けるんだからね」
「春雷様はどうされるのですか」
「あの子次第ね」
「どうしてそのようなことを?」
「人間を一人幸せにすることが生きながらえる条件なの。空狐様との。私どうしても生きたいの」
「宗冥ですか」
「ええ。振り向かせるためにあんなことしちゃって後悔だらけ。もしもう一つ我儘を叶えてもらえるならそばにいられるだけでいいの。そのために香穂や蓮夜を利用するみたいで悪いけど」
マキノはしばらく黙った後「私、なんだかずっと前からこういう結末になるのは決まっていたのではないかと思います。もしも今までの出来事がぜんぶ空狐様の計らいならば、きっとみんなが幸せになる結末になるのではないでしょうか」
「だといいわね。それでね、マキノにお願いがあるんだけど」
「なんでしょう」
「すべての事が済んだら、あの、なんていったかしら、リクが昔お世話になってたところ」
「渋然様のことですか?」
「そうその渋然様ってとこに都合つけてもらえないかしら」
「わかりました。伝えておきます」
こうして二人の密かな約束は交わされた。