黒狐と蛇女の脱獄を知った私たちは沈黙。

「行き先がわかりました!」そこへマキノさんが来た。
「おそらく呟国かと思われます」

 蓮夜さんとリクさんと奏さんが目を大きく見開いて驚きをあらわにした。
「牢を開けた形跡はありませんでした」とマキノさん。
「あの力で咲が二人を連れ出したのか」とリクさん。
「あの力?」
「マキノと同じ、空間を通り抜けられる力だ」
「なぜそのような力を咲さんが」マキノさんが驚く。
「奏、本当になにも知らないんだな?」
「ああ」奏さんは力なくこたえて項垂れている。

「呟国に行くぞ。マキノ、香穂と春坊を頼む」
「はい」マキノさんの表情が苦しそうだ。
「蓮夜、いいか?」
「ああ」
「奏も来るんだ」
 奏さんは無言で立ち上がり、リクさんの後について行った。

「くれぐれもお気をつけて」と言うマキノさんに無言で頷き、壁の中へ入っていくリクさん。
 蓮夜さんも行ってしまう!
「蓮夜さん、帰ってきますよね」
 私の言葉に頷くことなくただこちらを見る蓮夜さん。その表情はどこか苦しそうだった。
 そして3人とも行ってしまった。

「マキノさん、あっちの国ってなんですか?危険なところなんですか?」
「ええ」マキノさんが俯いてこたえる。
「みんな帰ってきますよね。咲さんも」
「それは……わかりません」
「そんな」涙が溢れてきた。
「こんな別れ方嫌です」
 泣いてる私の背中を優しくさすってくれるマキノさん。

「香穂さん、少しお話させてください」マキノさんが穏やかな声色で言う。
「このことはまだ誰にも言っておりませんが、私の空間を通り抜けられる力はもうすぐ消滅すると思うのです。先ほどここに来るとき力に少々違和感を感じて、それで木を通り抜けて来ました」
「どうして私にそんな大事な話を?」
「どうしてでしょうね。でも咲さんの件、私の力が消滅すること、なんとなく繋がってるような気がして。もしも私の力が次使うのが最後だとしたらそれはきっと香穂さんのために残されたのだと思うのです」
「あの、どういう」
「行きましょう。呟国に。なにかあれば私がすぐに香穂さんをこちらの世界へ戻します」
「マキノさん」
「蓮夜様にちゃんと自分の気持ちを伝えてください」

 春雷君が私の服の袖をぎゅっとつかんだ。
「僕も行く」
 マキノさんを見ると優しい顔をして頷いた。
 私はなぜだか春雷君を抱きしめたくなって両腕で包み込んだ。なんとなくそうしたくなったのだ。
「行きましょうか」
「はい!」

 マキノさんが出した大きな狐の背に乗ってもののけ界の上空を飛んでいく。
「あのう、リクさんとマキノさんがいる国とは別の国なんですよね」
「ええ。このもののけ界には二つの国があります。私たちが住んでる国は暁国。そしてもう一つが呟国。リクさんも蓮夜様も咲さんも奏さんも元々は呟国に住んでおりました」
「二つの国を自由に行き来することはできないんですか?」
「ええ、ごくわずかな者しか」
「蓮夜さんはどうやって暁国へ?」
「春紅様が修行に行く途中、怪我をされて妖怪に襲われそうになったところを蓮夜様に助けていただいて。それで二人は恋に落ち、春紅様がこちらの世界に蓮夜様を連れてこられたのです。その時付き人のような存在だった咲さんと奏さんも一緒に」
 そうだったのか。

「間もなく呟国に入ります。春雷様としっかりしがみついててください」

 きっとみんなではるの荘へ帰れるよね。

23話 もののけ界 もう一つの国

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