「よう、岩崎」
肌寒かった背中が、不意に熱を持つ。
振り返らずとも、大学の授業で一緒のグループになっている青木が徹の背中にのしかかっていることが分かった。
「おまえ、確かこの前二十になったんだよな」
グループのメンバーのもう一人の男子、植村が、徹の横に居ることを確かめてから、青木の声に頷く。今週のグループワークの課題は、既に提出したはずだ。ちゃらい見かけに反し、この二人は授業にも真面目に出席し、個人レポートに関しても多いと文句をこぼしつつも一人で仕上げてしまう。この二人と同じグループで良かった。それが、徹が大学生活でほっとしている、殆ど唯一の事柄。
「今日、暇か?」
青木の声に、再び頷く。
「だったら、俺たちと合コンにつきあってくれ」
合、コン? 突然の、きらきらとした言葉に、思わず目を瞬かせる。
「急に用事ができたとかで、一人面子が足りないんだ」
青木の言葉を補足する植村の言葉に、徹は小さく首を捻った。今日は、徹が夕食当番。二人に付き合うのであれば、姉の許可が要る。
「ちょっと待って」
背中の青木の重みを感じながら、上着のポケットから携帯端末を取り出す。武骨な指で素早くメッセージを作成すると、止まる指に違和感を覚えながら姉の連絡先を指定した。
すぐに、メッセージが戻ってくる。
「合コン? 良いじゃない」
あくまで明るい文章に、徹の唇は知らず知らず歪んでいた。
「今日は外で食べて帰るわ。合コン、楽しんで」
メッセージの半分で、携帯端末を乱暴にポケットにしまう。
まだのしかかっている背中の重みに向かって、徹は承諾の頷きを返した。