「では、自分の役柄の部分を、台本を通して読み合わせていくよ。
あ。さち子さんは前回『パン屋の娘』だったけれど、今回から『妖精』になったから注意してね」
松田先輩が台本を配りながら説明する。
「は……、はい」
うう……、緊張。
漢字が読めなかったらどうしよう。
皆の前で、赤っ恥かきたくないな。
新人だから、台詞は一言ぐらいで終わりますように……。
『妖精:私はパン粉の妖精、パン・デ・ロールさち子。
皆、私の事をさち子と呼ぶわ』
「ストォォォーーップ!」
「どうしたのですか? さち子さん」
私の制止に松田先輩が驚いた。
「何故『パン粉』の妖精なのですかッ!
火の精とか水の精とかもっと役に立ちそうな妖精が沢山いるじゃないですか」
「それがね、意外と役に立つんだよ。
さち子さん、ここは気にせず読み続けてくれるかな」
「あ……、ハイ……」
『妖精:私の魔力は手のひらから小麦粉を出して、敵に目潰しを喰らわせたり、手のひらから出てきた小麦粉を練ってパンを作り、お腹を空かせた民に与えたり。
あ。もちろんパン粉も出せるから、カキフライもお手のものよ。カキさえ入手できるのであればの話だけどね』
手のひらから小麦粉やパン粉が出せる魔力って、何だか気持ち悪いな……。
『妖精:おっと。忘れちゃならないのは、この『聖なる麺棒』で敵を薙ぎ倒していく技よ。
この『聖なる麺棒』さえあれば、イノシシだって一撃で倒せちゃうから』
あー。
黒川が作った、スイッチを押すと光る『麺棒』をどうしても使わせたいのね。
中世ヨーロッパの設定は、どうなっているのだろうか。
『妖精:さあ、民衆よ!
武器を手に取り戦おうではないか!
戦いの向こうに自由がある!
何も恐れることはない!
私には『パン粉』があるから!』
『民衆:ぅおおーーーーーー!』
『妖精と民衆:『戦いの歌』を歌う』
「審議、審議ーーー!」
「どうしたの?さち子さん」
「松田先輩、妖精役の台詞があまりにも多すぎます。民衆に至っては『ぅおおーーーーー!』しか言っていませんよ。
こんな台本、誰が納得するのですかッ!」
「大丈夫。
皆、納得しているから。ね?」
チェアにふんぞり返った黒川が、遠くでヒヒと笑っている。
くぅぅぅ~~~~。
松田先輩の前で何も言えないのが悔しいッ。
これは屋敷に戻って、皆で審議会を開かねば。