ある日の反省会で。



「ねえ、皆。

 一つ提案があるんだけど」



いつも居眠りばかりしている青田が珍しく手を挙げた。



提案って何だろう……。

青田は良からぬ事しか考えないから怖い。



まあ、白石のように学園内での私の失態を告げ口するような事はしないから、その点は安心だけど。



「世間でハロウィーンが定着してきてるよね?

 だから、今年からこの屋敷でもハロウィーンパーティーをしようと思うんだけど、どうかな?」



ハロウィーンパーティー?



詳しい事は分からないけれど、変装して呪文のようなものを唱えたら大量にお菓子がもらえるシステムだよね?



「青田。アナタ、今とても良いことを言いました。

 一年も終盤に差し掛かるところですが、今年初の有意義な提案だったのではないでしょうか。

 皆さん。せっかく青田が良いことを言ったのですから、青田の為に協力するしかありませんよね? ね?」



「青田君。折角の提案、申しわけないのですが、海外の伝統的な文化を、ただ馬鹿騒ぎをしたいが為に、安易に取り入れるのは良くないですよ?

 ハロウィーンは収穫を祝う祭りですよね?

 収穫を祝いたいのなら、日本にも古来より収穫を祝う『秋祭り』があるのですから、町内の秋祭りに参加するので十分だと思いますが」



また白石の長い話が始まった。



でも秋祭りも捨てがたいよね。



りんご飴にタコ焼き、たい焼き。

綿あめ、焼きとうもろこし、焼そば、かき氷……。



黒川は『食い過ぎて腹を壊すから』と言って、いつも二つまでしか買ってくれないけれど、薄暗い場所にオレンジ色の明かりが浮ぶ中、ソースや醤油の香ばしい匂いと、賑やかなのに寂しげな雰囲気が独特の空間を作っていて、その中にいるだけで楽しい。


「お嬢。

 ヨダレが出ていますよ」



白石に洗面器を持たされる。



「じゃあ、僕たち大人組でハロウィーンの用意しておくから。

 当日は皆、仮装をして集まろう。ね?」



「ちょっと待ってください、青田君。

 皆って事は、俺も仮装をするのですか?」



「当然だよ? 白石君」



「……」



白石が、とてつもなく嫌そうな顔をして黙った。


昔から『影のリーダー』と呼ばれている青田に、さすがの白石も逆らえないようだ。





こうして迎えたハロウィーン当日。



皆、どんな仮装をしているんだろう……。

 

皆が仮装をするということは、当然私もしなければいけないんだよね……。

 

クローゼットから洋服を出してベッドに並べてみる。



うーん……。

ジャージばかりで、仮装と呼べそうな服はないな……。



よし。

ここは『ごみ袋方式』でいくしかない。



『ごみ袋方式』は小さい頃、お姫様ごっこをするためによくやっていた、お手軽な洋服作成方法だ。

大きめのビニール袋にハサミで頭と両手が出せる穴を切り抜き、頭からすっぽり被って洋服に見立てる。



今回は黒いごみ袋を使い、頭から被って腰に麻ひもを巻いた。



これで『魔女』の完成。



少し雰囲気を出すため、猫のぬいぐるみを持ち、肩にラッコのぬいぐるみを乗せた。



黒猫とカラスのぬいぐるみにした方が雰囲気が出そうだけど、持っていないから仕方がない。

わざわざ買うのも勿体ないし、作るのも面倒なので、これでいいだろう。



後は竹箒と黒いトンガリ帽ぐらいあった方が、本格的かな……。


フフッ。

私の仮装のクオリティーの高さに、皆、驚いちゃうんじゃないの?



今日の仮装大賞は私で決まりですな!



庭の竹箒を借りるため、私は魔女の格好で庭に出た。



「うわぁ……! 可愛い!」



玄関の扉を開けると、庭の所々にカボチャのランタンやカカシが置かれ、飾り付けられていた。



まるで、御伽噺の世界に迷いこんだみたい!



「おや? お嬢も仮装をしたの?

 ……。

 何だかよく分からないけれど、可愛いね」


着物姿で木にランタンを吊るしている青田に声を掛けられた。



「え? 分かりませんか?

 魔女の仮装ですよ。

 青田こそ、着物姿に黒い眼帯をつけて……。

 何の仮装ですか?」



「一つ目小僧だよ」



エ?

一つ目小僧って、こんな感じだったっけ……?



まあ、いいか。

青田は仮装大賞から外れたな。



「青田。竹箒と黒いトンガリ帽子はありませんか?

 魔女の仮装のクオリティーを高めたいのですよ」


「あー。竹箒はカカシに使っているから、熊手でいいかな?

 トンガリ帽子は無いから、麦わら帽子でいい?」



青田に麦わら帽子を被せられ、熊手を持たされる。



……。

クオリティーが低くなっていないか?

 

「さて、ここで問題です。

『トリック・オア・トリート』

 トリックとトリート。どちらがお菓子で、どちらがイタズラでしょう?」



いきなり青田がクイズを出してきた。



「え?

 ……そう言えば、どっちがどっちダロウ?」



「フフフ」



「トリックって、手品とかで使われている言葉だから……。

 トリックがイタズラで、トリートがお菓子ですか?」


「なるほどー!」



「なるほどー! って……。

 青田。どちらが正解か分からないのに問題を出したのですか?」



「フフフ。

 白石君の言う通り、海外の文化をよく知りもしないで安易に取り入れようとするのは、僕たちの悪いところだよね」



だよね。って……。



ハロウィーンパーティーをしようと言い出したのは青田ですよね?

悪いと思っているのなら、事前に調べとけェェェー!



ふぅー。

青田の相手をしていると疲れるな……。



お菓子も持ってなさそうだし、退散退散。


とりあえず私は青田から麦わら帽子と熊手を借りて、屋敷に戻った。

閑話(お嬢と五人の執事)ハロウィーン編1

facebook twitter
pagetop