あれから1ヶ月が過ぎた。

 夏になったら海に行こう……なんて咲さんと話してたっけな

 出会って間もない頃にした咲さんとの会話を思い出す。

 先週はリクさんがマキノさんを連れて来た。
 マキノさんと一緒に、九羅さんと伯李さんの最後を見届けたそう。
 咲さんのことを聞いてみたけど、俺の口からはなんとも言えないと言われた。

 そして今日はめずらしく蓮夜さんが休みを取ったそう。
 とくに出かける予定もないのに。
 あと大量に買ってきたお菓子……蓮夜さん最近お疲れ気味?

 春雷君と部屋で遊んでる間、私はお昼ごはんの準備をした。

「おっ、今日はおいなりさんとうどんか」
「おいなりさんおいなりさん」
 蓮夜さんが春雷君を抱っこして様子を見に来る。

「ちょっと多めに作ってもらえないか?」
「いいですけど……お腹空いてます?」
「ん、ああ、春雷もいっぱい食べたいだろうし。なぁ春雷?」
「食べたい食べたい!」

 春雷君は油揚げが大好物なので材料は多めに買ってある。
 お皿にてんこ盛りのたくさんのおいなりさんが完成した。

 さぁいただきますして食べようとなったとき、蓮夜さんがなんだかそわそわしてキッチンと自室を行ったり来たり。

「どうしたんですか?」
「ん?んー」
 蓮夜さんは私から視線を逸らし自室のほうを横目に見る。

 じーーーー。

「誰か来るんですか?」

 そうならそうと言ってくれればいいのに。

 と、その時蓮夜さんの部屋の壁から奏さんが出て来た。
「じゃまするぞ」
「奏さん!お久しぶりです!ってリクさんも!?」

「黙っててすまん、驚かせたくてな」と蓮夜さん。

 奏さんとリクさんが来ることがサプライズ?
 と思ってたら、二人の間から小さな女の子がひょっこり顔を出した。背丈は春雷君と同じくらい。耳と尻尾がついている。

「あら香穂、元気そうじゃない」と、にこりと言う女の子。
 この声、この口調、もしかして「咲さん!?」
「あったりー!」

「あれからいろいろあってね。空狐様の計らいで呪いは解かれたけど見ての通り小さくなって」

 詳しいことはわからないけど、でも、また会えて嬉しい。涙が溢れてきた。

「また泣いちゃって。泣き虫さんね」と、咲さんが近づいてくる。

「蓮夜さんもリクさんも知ってたんですか?」
「ああ、黙っててすまん。びっくりさせたいからと咲に口止めされてて」
「それと奏も咲もここに住むことになったぞ。恭蔵さんに空きが出たらおしえてくれと頼んでおいたんだ」

 もう〜〜〜〜〜〜〜、みんなで裏で私に内緒で事を進めてたなんて!

「香穂、これからもよろしくね」と言う咲さんを私は勢いよく抱きしめた。

「苦しいわよ〜〜〜〜」
「ごめんなさい」
 お互いクスッと笑い合う。

 新しい仲間との生活。
 その日はおいなりさんとうどんと大量のお菓子で二人の歓迎会。
 知ってたらご馳走やケーキ用意したのに。
 でも……なんか思い出すなぁ。蓮夜さんと春雷君に初めて出会った日はきつねうどんだっけ。
 春雷君ったら、油揚げおかわり!なんて言っちゃって。

 咲さんと春雷君はおいなりさんをパクパク食べる。
 お皿が空になると
「「おいなりさんおかわり!」」
 二人の声がシンクロした。

 蓮夜さんもリクさんも奏さんも、そして私もそんな二人の可愛らしい姿を見て笑みがこぼれた。

 これからどんな日々になるのかな。毎日ここに帰ってくるのが楽しみになりそう。
 
 その日は奏さんと咲さんの引っ越し記念にみんなで記念写真を撮った。

20話 はるの荘に新しい仲間

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