もののけ界、ここは奏と咲の家。

「やだ、消えたくなんかない」
 ベッドで苦し紛れに言う咲。

「もう贅沢なんて言わないからもう少し、もう少しだけ」

 そんな我が妹の手を強く握る奏。
 彼はすべてを知っていた。咲がこうなった訳を。

 それは蓮夜と春紅が出会う少し前のこと。
 もののけ界に古くからの言い伝えで、千年に一度だけ願いが叶う実のなる木が現れるというものだった。
 咲はその木をやっとの思いで見つけ、実を食べて願ったが願いは叶わずなぜだかもののけ界だけを行き来きできる渦を出す力を得た。
 咲がなにを願ったのか奏はおしえてもらえなかった。
 咲はどんどん弱っていく体に自身の寿命の短さを悟り、受け入れた。

 一度は受け入れたのだが。

「死に際にならないと大切なことに気づけないなんて……」

 そばにいるだけでよかった……。

 もう言葉を発する気力もなかった。

 そんな苦しむ咲を見て奏はぎゅっと手を強く握りながら祈った。

 どうか、どうか、咲を救ってやってください。

 その強い想いが奇跡を起こす。

 奏の前に白く渦をまいた煙が現れた。

「あなた様はもしや……!」

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