「会ってきたわよ」
地下の牢獄に咲の声が響く。
「あー楽しかった。現世っていいわよね。食べ物はおいしいし娯楽が溢れてるし、ぜんぜん暇しないわ」
「で、奴は?始末したのか?」
牢の中から男の声がする。
「はぁ?やるもなにも私は最初からあんたと手を組むつもりなんてないわ。れんれんが人間の娘と暮らしてるって聞いたから興味が湧いただけ。いい加減執着するのやめたら?あんたのそれ、ぜんぜん一途なんかじゃないから。マキノのこと忘れられないのはわかるけど、周り巻き込んで傷つけてまで手に入れたいの?」
そして壁を挟んだ隣にあるもう一つの牢へ近づき「あんたもよ。散々引っ掻き回して挙句に牢獄暮らし。自分の欲を優先した結果よ」
咲が話していた相手は黒狐の宗冥と蛇女の那澄だった。
「今度れんれんたちに危害を加えたら私が絶対に許さないから」
咲はそう言い、牢の真ん前の石壁に手をかざし青白い渦を出した。
途端に咳き込んで苦しむ咲。
「おや、辛そうだねぇ。その力、いつまで隠し通せるかな」と下卑た笑みを浮かべて言う宗冥。
咲は唇を噛み締め、よろけながら渦の中をくぐる。
二つの牢獄には沈黙だけが残った。