はぁ……
ついにきてしまった土曜日。
私は気が進まないまま出かける準備をする。
「すいぞくかんすいぞくかん」
きゃっきゃとはしゃぐ春雷君。
水族館に行くと決まった日からわくわくしてたっけ。
よし!春雷君のためにもいい思い出作らなくちゃ!
心の中で気合を入れてショルダーバッグのファスナーを閉めた。
「おっじゃまー」
お狐兄妹の到着だ。
咲さんの服装は紺色のブラウスに薄ベージュのスカート。腰元のリボンが女の子らしさを演出。
ってなにコーデチェックしてるんだ私は。
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水族館に到着。
「ねぇ案内してよー」
蓮夜さんに腕組みする咲さん。
イラ~
「かほ、痛い」
「ごめんごめん!」
イラッとして思わず、手をつないでいた春雷君の左手を強く握ってしまった。
「ごめんね、今日だけは大目に見てもらえないかな」
そう言うのは奏さん。
「久しぶりに会えたもんだからちょっと舞い上がってるんだ」
そういえば……。
「蓮夜さんとは昔からの友達なんですか?」
「ああ、同じ野狐仲間だよ。昔のあいつはギラッギラでさ、目なんかこーんなに釣り上がってるのなんのって」と、奏さんは目尻を指で上にピーンと上げて見せた。
「今じゃあんなに穏やかになって。春紅様と出会って変わったよ」
私の知らない蓮夜さん……気になる。
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一通り見てまわり、次はイルカショーを見ることにした。
すると
「ねぇ、一番上で見ましょうよ」
咲さんが私の手を引き上の観覧席へと行く。
蓮夜さん、春雷君、奏さんは下の一番近い場所で見ることになった。
席に座ると「あー痛かった」
「え?」
「しーせーん」
目を丸くする私に咲さんはさらにつづける。
「まるで大事なものでも取られてヒヤヒヤな目をしてたわ。取られそうなら奪い返すくらいしなさいよね」
あくまで私は冷静に「奏さんから、久しぶりに会えたから大目に見てやれと言われたので。お二人をあたたかーかい目で見守ってました」と無理やり笑顔を作って言った。
「あなた正直ね。無理に笑わなくてもいいわよ」
「うっ」
「別にあなたの恋路を邪魔するつもりはないわ。今日はほんとに楽しみたかっただけなの」
「恋路って、リクさんに聞いたんですか?私が蓮夜さんのことを……」
「あなたの態度を見ればわかるわよ。ほんとわかりやすいんですもの」
その時イルカたちがザバーンと水しぶきをあげて水中から飛び出てまたもぐり、水しぶきが蓮夜さんたちにかかった。
春雷君はきゃっきゃと喜んでる。
私はそんな春雷君の可愛い姿を見て自然と笑みがこぼれた。
「ふーん、大事に思ってるんだ」
「え?」
「なんか安心した。れんれんたちに出会えたのがあなでよかったわ」
あれ、同じようなこと、春紅さんにも言われたな……。
「好きならしっかりつかまえときなさいよね~」と言い、そして咲さんは私の肩に手を置いて
「安心なさい、私はあなたの味方よ」
え?
咲さん、てっきり恋のライバルかと思ったら恋のキューピッド……かも?
私にはもうもやもやした気持ちなんてなかった。
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はるの荘。
「じゃーねー」と手を振りもののけ界へと帰っていく咲さんと奏さん。
「さっき咲となに話してたんだ?」と蓮夜さんが聞いてきた。
「秘密です」と私は人差し指を口にあてて言った。
奏さんが言ってたギラギラ時代の蓮夜さんが気になる……。
その夜は数日ぶりにぐっすり眠れた。