春、お花見シーズン到来。

 私と蓮夜さん、春雷君は少し遠出をしてお花見に行くことにした。
 初めて乗る電車にわくわくする春雷君。
 座席に膝を立てて窓の外から見える景色に目を輝かせている。今にも尻尾が出てきてふりふりしそう。

『あの子にいっぱい思い出を作ってやっておくれ』

 いつかの春紅さんの言葉が頭をよぎる。
 これから少しずつ思い出作ってあげられるかな……。

 去年の秋から冬にかけていろいろあったな。
 ほんとにいろいろ……。

 しみじみと思い返していると「もうすぐ着くみたいだぞ」
 蓮夜さんがおしえてくれた。

 電車を降りてバスに乗り換え10分ほどで桜祭りを開催してる大きな公園に着いた。

「人がいっぱい!」
 驚く春雷君。そして、ぐぅ~とお腹が鳴る。

「屋台でなにか買いましょうか」
 ほんとはお弁当を作ってこようと思ったけど屋台があるならそれにしようと蓮夜さんが言った。
 それに春雷君も屋台は初めてだろうし。

「これなに?」
 春雷君が興味津々に指をさす先にはたこ焼きが。

「食べてみよっか。おいしいよ~」
「うん!」

 桜の木の下にレジャーシートを敷いて3人でたこ焼きを食べる。

「おいしい!」
 喜ぶ春雷君。

 私は春雷君の後ろを一応見る。それに気づいた蓮夜さんが「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。耳と尻尾が出ないよう最近は上手く制御できるようになったんだ」
「そっ、そうなんですか。すごいねー」と春雷君の頭を撫でたら、耳と尻尾がぽんっ!

 どうやら褒められて思わず出ちゃったみたい。可愛い~!

 って、誰も見てないわよね。

 辺りに人がいないことを確認する。
 私たちが座ったところは大きな公園の外れにある桜の木の下。幸い遠くに人がちらほらいる程度だった。

「次はあの赤いの食べたいな」春雷君が言う。
 赤いのというのはさっき屋台で見たりんご飴のことだろう。

 たこ焼きを食べ終え、もう一度屋台に行ってりんご飴を買い、食べながら3人で大きな公園を一周りしてお花見を楽しむことにした。


 そしてはるの荘に帰宅。

 帰ってきてすぐ眠気がきた春雷君はすーすーと寝息を立てて寝る。むにゃむにゃとなにか言ってるその可愛い姿を見て微笑み合う私と蓮夜さん。

「今日は本当に穏やかな一日だった。桜を見たのは何百年ぶりだろう」
「そんな大袈裟な」
 でも何百年ぶりというのはほんとだよね……数百年も生きてたら100年前なんてつい昨日のことみたいに思えるのかな。

「蓮夜さん」
「ん?」
「昔の蓮夜さんてどんな感じだったんですか?今と変わらないですか?」
 ちょっと聞きたくなった。

「んー」
 蓮夜さんは天井を見ながらなにか考えてるみたい。
 すると私の方を向いて「初めて会ったときのこと覚えてるか?」
「え?」
「香穂の髪をこうやって指ですくって」

 近い近い!蓮夜さん急にどうしちゃたのー!?

 私の心の中はパニック。でもあくまで冷静に。大人ですから!

「そ、そんなこともありましたね。あはは」
 心臓はバクバクだ。

「あの時は香穂に、口のまわりにチョコがついてることを指摘されてかっこがつかなかったが、そうじゃなかったらどうしてたと思う?」
「え、と、どうしてたって、あの時は春雷君とおじさんがいたし……」
「いなかったら?」
 だんだん蓮夜さんの顔が近づいてきた……かと思うと私の頭を手でぽんっとしてにこりと笑う。

 もしかして、はぐらかされたー!?

 と、その時「じゃまするぞー」
 リクさんが来た。

 ぷはー、心臓破裂するかと思ったー!

「顔赤いぞ、熱でもあるのか?」
 リクさんが私の顔を見て言う。

「熱は、ない、です。大丈夫、です」
「そうか。今日はもう二人、連れがいる。どうしても来たいと言ってな」
「私はかまわないです。あっでも春雷君が寝てるので静かにお願いします」
「ああ。蓮夜、連れというのは奏と咲だが、いいか?」
「なっ、あいつらか。まあいい、問題ないだろ」

 どうやら蓮夜さんの知り合いみたい。どんな人たちなんだろ。仲良くなれるかな

 そして奏さんと咲さんと呼ばれる人たちが入ってきた。

「おっじゃまー!」
 静かにと言ったのにそれを無視して元気よく入ってきたのは女の人だった。
 耳と尻尾が生えてるところを見るとお狐様みたい。

「こら咲、静かにと言われただろ」
 もう一人入ってきたのはメガネをかけた男のお狐様だ。

「紹介しよう、こっちが」
 リクさんの言葉を遮って「妹の咲でーす」と言ったのは女のお狐様。
「私は兄の奏」穏やかな笑みを浮かべて言ったのは男のお狐様だ。
「私たち双子なの」と笑顔で言う咲さん。
 咲さんはウェーブのかかったロングヘアで奏さんはウルフヘア。二人とも濃紺の髪色をしていた。

 すると咲さんは蓮夜さんのそばに行き「会いたかったー!れんれん!」と、がしっと腕に絡みついた。

 れんれん!?

 騒ぎで目が覚めた春雷君は寝ぼけ眼をこすって起き上がる。

「ごめんな、起こしてしまったな」とリクさんが春雷君の頭を撫でる。

「ねぇ~久しぶりに会えたんだしーどっか遊びに行こうよー」
 咲さんが蓮夜さんに上目遣いをして言う。私はちょっとイラッときた。

「今日はもう遅いから。それに春雷も疲れてるしな」
 そう言う蓮夜さんにふくれっ面を見せる咲さん。

「今度の休みなら」

 はぁ!?行くの!?

「いいの?やったー!」

 喜ぶ咲さんを見てやれやれという顔をするリクさんがイライラしてる私に気づいてこそっと言う。
「あの二人はなにもないから安心しろ」

 そう言いますけどね、もし他の男がマキノさんのことをマキマキなんて呼んだら今みたいに冷静でいられます?
 
 今度の休みの土曜に私、蓮夜さん、春雷君、奏さん、咲さんで水族館に行くことに決まり双子お狐兄妹は帰っていった。

 私は今度の土曜日が億劫でたまらなかった。

17話 3人でお花見 そして双子お狐兄妹登場

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