おい、ちょっと近すぎないか。
蓮夜は焦燥していた。
香穂になにやら耳打ちしてる松本の姿をカウンターから見ていた。
「おい、顔怖いぞ」と言うリクの声ではっと我に返る蓮夜。
「あの松本という者、香穂と同じ会社で働いてるそうだ」
「ああ、そういえばそうだったか。それがどうした?」
「……」
「ただの同僚だろ?とても恋仲には見えないが?」
「なっ、俺はっ」
「なるほどなぁ」とニヤつくリク。
「なんだよ」
「いいんじゃないか?好きになるのは自由だろ」
「俺には春雷がいるし……」
「お前、そんなこと気にしてんのか」
「そんなことって」
「お前は現世でいうといわゆるバツイチ子持ちということだが、バツがついていようがマルがついていようが要は相手を信じて思いやれることが大事だと思うぞ」
「そうだが俺は」
リクは蓮夜の言いたいことを察してさらにつづける。
「俺たち妖怪やもののけは人間とは結ばれないのはあたりまえだが結ばれるだけが恋ではないだろ。長く生きてるからこそ信じて大事にしないとな。お前のその気持ちも香穂も」
「ああ、そうだな」
松本が店を出る姿が見えて蓮夜は「ありがとうございましたー」と言った。
すると香穂がこちらを振り向き微笑んだ。
蓮夜も微笑みなんだか胸が熱くなった。