「とーちゃんおかえり!」
 バイトから帰ってきた蓮夜さんにきゃっきゃと飛びつく春雷君。

「蓮夜さんおかえりなさい」
 私は今日松本君に水晶玉をもらったこと話した。

 ・
 ・
 ・

「とくに変わったとこはないな。妖力も感じないし」
 蓮夜さんは水晶玉を手のひらにのせてまじまじと見る。

「でも昼間、春雷君が持ったら春雷の耳と尻尾が出ちゃって。なにかあるのかなって」
「春雷、この水晶玉からなにか力は感じるか?」
「わかんない。でも声が聞こえたんだ」
「声?」
「はやく、はやく行かなければって」
「どこにだ?」
「わかんない」
「今はなにか聞こえるか?」
 そう言い春雷君に水晶玉を持たせてみる蓮夜さん。
「なにも聞こえない」と春雷君は首を横に振った。
「リクに相談してみるか」

 蓮夜さんはすぐリクさんのところへ行った。
 リクさんは松本君に話を聞きたいと言うので後日会うことに。


 その夜私は夢を見た。

 納品しなきゃ これ、このままでいいんだよね あれ、今日何曜日だっけ やば、もうこんな時間 ああ、また怒られる 炊飯器のスイッチ入れたっけ
 
 遅れる!


 バッと布団から起き上がり時計を見ると夜中の2時。

 夢か……。

 夢だったことに安心して一息ハァとつく。

 すると襖をコンコンする音がした。

「香穂、大丈夫か?うなされてたぞ」
 蓮夜さんが心配して起きてきてくれた。

「大丈夫です。起こしちゃってごめんなさい」

 また横になって天井を見ながら考えた。
 どうして今さらこんな夢を……。

 私は過去の職場での嫌なことを無理やり頭から追っ払った。

 ・
 ・
 ・

 そして今日はリクさんが来る日。

「よっ」

 お昼ごはんの支度をしてたらリクさんが来た。

「じゃあさっそく行くか」
「いいですけど……その服装ではちょっと」

 リクさんの服装は濃グレーの和装に黒い羽織もの着ていてこの辺を歩くには少々目立ちすぎていた。
 蓮夜さんが用意してくれた服を借りることに。

 松本君には事前に連絡していたので私たちはカフェへ向かった。

 ・
 ・
 ・

 カフェ。

 リクさんと春雷君、私と松本君が対面するかたちで席に座る。

 すると松本君はリクさんの顔をじーっと見た。
「あのう、どこかでお会いしたことありましたっけ」
「いや、ない」

 この二人、一度もののけ界で会ってるのよね。
 松本君は記憶消されて忘れちゃってるけど。

「そうですか。あの水晶玉について聞きたいんですよね。その前にあなたはどういった方なんでしょう」
「オカルト研究家だ」

 ぷっ、そういう設定ですか。

 リクさんはつづける。
「そこで働く蓮夜に話を聞いて興味がわいてな。なんとなく持っていてはいけない気がするそうな?」
「はあ、僕が持ったらなんか嫌な感じがして……」
「ふむ、水晶玉は元々おじいさんのものだと聞いたが、どこで手に入れたのか聞いたことはあるか?」
「古い骨董品店で見つけたと言ってました。あっ、思い出したんですけど、あの水晶玉には番がいるって祖父が言ってました」
「その骨董屋はどこにあるかわかるか?」
「いえ、わからないです」

 結局その日はそれ以上の話は聞けずに終わった。松本君もあまり知らなかったみたいだし。
 ほんとは持ち主に聞くのが一番だけど松本君のおじいさんはもう亡くなっている。

 店を出るとき、松本君が私に耳打ちしてきた。
「ねえ、あの人ちょっと怖くない?」

 あー、私も最初は思ったなぁ。眉間にシワ寄せてしかめっ面だし。
 でもね。

「ちょっと怖そうだけど優しいとこもあるんだよ」
 そう、なにかと気にかけてくれるしね。

「うん、嫌な感じはしないかな。なんとなくだけど」

 私は自分の座ってる席から奥の角の席を見て思い出した。

 ここは――

 2年ほど前、就職して間もない頃、仕事で初めて失敗して上司に怒られた。
 それもみんなの前で。
 止むことのない社内中に響く怒号。私はただ黙ってるしかなかった。
 帰っても寝れる気がしなくて街をふらふらしてふと目についたのがこのカフェ。
 なにを注文したのか覚えてないけど店を出るときに聞こえた店員さんの優しい声は思い出せる。

 松本君がそろそろ帰るというので見送ると「ありがとうございましたー」

 そう、こんな声……ん!?

 声の主のほうを見るとそこには蓮夜さんが!
 あの時の店員さんは蓮夜さんなの!?

 だとしたら2年前に私たち出会ってるってことだよね。

 思いがけない偶然に私はふと笑みがこぼれて蓮夜さんと目が合った。
 蓮夜さんもこっちを見て笑った。

14話 リクさんと松本君のご対面

facebook twitter
pagetop