おいなりさんに、卵焼き、ウィンナーとブロッコリーも
よし!お弁当完成!
春雷君が人間に化けられるようになっての初めての外出。
蓮夜さんにお弁当を届けに行くついでに職場見学。
蓮夜さんがどんなふうに働いてるのか私も気になる。
春雷君と手をつないでいざ出発!
年末休みに入った私は春雷君と、蓮夜さんが働くカフェへ行くことにした。
カフェに到着。
あれ?ここ……来たことあるような……。
「いらっしゃいませ」
女性店員の明るい声ではっと我に返り、席に案内される。
あそこの角の席……。
店員に窓際の席を案内されて行く途中、角の席が気になった。
「春雷、香穂」
「とーちゃん!これお弁当。僕もおいなりさん作ったんだ!」
「ありがとうな」
「僕、耳も尻尾もちゃんと隠せてるよ」
「しーっ!」
春雷君の言葉に私と蓮夜さんは慌てて人差し指を立ててお互い顔を見合わせてクスッと笑った。
蓮夜さんは「ゆっくりしていって」と言うと仕事に戻っていった。
私と春雷君はチョコクロワッサンとグレープフルーツジュースを注文。
蓮夜さんの仕事ぶりをちらっと見ると……。
女性客にモテモテだ。
まあ大体想像はしてたけど。
「鈴村君、こっちお願い」
女性店員に鈴村君と呼ばれてる蓮夜さん。
鈴村は恭蔵おじさんの苗字だ。
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食べ終わって一息ついたところで私と春雷君は店を出ることにした。
人通りの少ない道を歩いてると。
「藍原さん?」
松本君とばったり会った。
松本君は春雷君を見て「弟さん?」と聞く。
「ううん、親戚の子なの」
松本君はしゃがみこみ「こんにちは」と、春雷君ににこりとあいさつした。
春雷君も「こんにちは」と言う。
すると春雷君は松本君が持ってた紙袋を指差した。
「ん?なにが入ってるのか気になるのかな?」
そう言うと松本君は紙袋の中身を見せてくれた。
中には日本人形が二体と小さな木箱が。
「年明けに人形供養に行こうと思って実家から預かってきたんだ。先日祖父が亡くなって遺品整理してたらこれが見つかって」
「それはご愁傷様です」
「この箱」と、春雷君は木箱が気になるようだ。
松本君は木箱を開けて見せてくれた。中身はきれいな真っ白な水晶玉だった。
春雷君は両手で水晶玉を持つ。するとぽんっと耳と尻尾が出てしまった。
運がいいことに松本君はくしゃみをして目を伏せたので春雷君の耳と尻尾は見なかった。
私は松本君が目を伏せたわずかな隙に二人の間に割って入り耳と尻尾を消すように言いなんとか正体はバレずに済んだ。
「うぅさむっ ってどうしたの?」
「きれいな水晶玉だなぁって あはは」
春雷君は水晶玉を持ったままじーっと見つめる。
「欲しいのかな?」と聞く松本君にこくりと頷く春雷君。
「だ、だめだよ。これ供養するものなんでしょ?」
「人形は供養するけどこの水晶玉は質屋にでも持ってこうかと思ってたんだ」
「ええっ、おじいさんの大事な形見なのに」
「なんとなくさ、俺が持ってちゃいけないものだと思って。欲しいならあげるよ。霊とか気になるなら祓ってもらうけど」
「ううん、大丈夫。この子の親がお祓いできるの」
「なら安心だ」
松本君に水晶玉をもらってその場を後にした。
蓮夜さんが帰ってきたら相談しなくちゃ。
この水晶玉が新たな問題を引き起こすなんてこの時は思いもしなかった。