蓮夜さんと鬼がリクさんと蛇女から離れて戦う。
 翠工さんがリクさんと蛇女へ近づき引き離し、蛇女と戦う。

「リクさん!」
 リクさんはもう立っていられるのもやっとで倒れ込んだ。
 マキノさんがすぐ傷の手当てをはじめた。

「香穂、無事でよかった。大蛇に食われなくてよかったな」
「春紅さんが助けてくれて。リクさんも無事でよかったです」
「ああ、運がよかったっつーか、あいつはまだ空狐様をまだ完全に取り込みきれてなかったおかげでな、隙を見てなんとか逃げてこれた」

 ガンッ!

 その時ものすごい衝突音がした。
 蓮夜さんと鬼、翠工さんと蛇女が戦っていた。

「心配すんな、二人共強い」
 リクさんが不安がる私を見て言う。
「とーちゃんはすっげー強いんだ!」
 春雷君が目をキラキラさせながら言った。

「いつもとーちゃんが守ってくれたもんな」
「うん!」
 リクさんの言葉に笑顔で言う春雷君。

 蓮夜さんのほう見ると今まで見たこともない険しい表情で刀を振っていた。
 いつもおにぎりを作ってくれる蓮夜さん。
 春雷君を可愛がる優しい蓮夜さん。

 でも今は、私がまったく知らない顔をして戦っている。
 これが本当の蓮夜さん?

「香穂」
 リクさんの声ではっと我に返る。
「どうした、怖いなら向こうへ避難してろ」
「いえ、違うんです。私」
 その時涙が溢れ出てきた。

 やだこんなときに。止まれ!涙!

「かほ、大丈夫だよ。とーちゃん負けないよ」
 春雷君が心配そうな顔をして言う。

「そうだね。蓮夜さんは強いもんね」
 必死に笑顔をつくる。

「なにがあったのか後でちゃんと聞いてやる」
 リクさんが起き上がった。

 その時、翠工さんと蛇女の決着がついた。
 蛇女は鎖で縛られ身動きとれなくなっていた。

 その姿をちらと見た蓮夜さんは「仲間は引っ捉えられたぞ」
 鬼と鍔迫り合いをしながら言う。

「仲間ではない。捨て駒だ」
 鬼はまるで虫けらでも見るような目をして言った。
「忌々しい白虎の一族め、封印した恨み晴らしてくれる」
「お前、封印されてたのか!なぜ解かれた」
「知る必要などない」

 その時蓮夜さんの刀が光り出した。
 そして春雷君が「かーちゃん?」
「春雷君?」
「かーちゃんが力を貸してって言ってる!」

 そして春雷君のまわりが金色の風で包まれた。

「おお!やっと目覚めたか!3000年に一度生まれる伝説の白虎!」
 鬼が蓮夜さんを振り払い春雷君のほうへ近づいてくる。

「お前なぜそれを知っている!」
 蓮夜さんが鬼を捕まえようとしたその時。

「ぐあっ」
 鬼が金色の風から弾き返され苦しみだした。
 そして鬼の体から真っ白な渦が出る。

「空狐様!」
 マキノさんが叫んだ。
「蓮夜様!今のうちに鬼を封印してください!」

 蓮夜さんはすかさず刀で鬼の胸を貫いた。
 鬼は塵のようになり刀に取り込まれていく。
 そして蓮夜さんは刀を鞘に収めた。

 春雷君を包んでた金色の風がおさまった。

 戦いが終わった。

 その後、鬼を封印した刀は翠工さんが地下の祠へ入れてもう二度と解かれないように御札を貼った。

 蛇女は投獄され尋問を受けることに。
 鬼が封印され、洗脳が解かれた蛇女は生気を失った顔をして尋問に答えたそう。
 この件に関しては後日リクさんから聞くことになる。

「で、なぜ泣いてたんだ」
 リクさんが気を利かせてくれて蓮夜さんと春雷君がいない場所に移動させてくれた。

「私、リクさんに言われたこと、ぜんぜん頭に入ってなくて、蓮夜さんとずっと一緒にいられたらなって蛇女の口車にのってもののけになろうと」
 肩が震えてまた涙が溢れてきた。
 そばにいたマキノさんが背中を優しくさすってくれた。

「辛いよな。いっそのこと記憶を消すか?」
 リクさんの言葉にびっくりして私はすぐ首を横に振る。
「蓮夜様は香穂さんに素敵な時間をくれた方ですものね」
 マキノさんが優しい声色で言う。

 素敵な時間……そうだ、素敵な時間をくれた蓮夜さんとずっと一緒にいたいがために自分の欲を優先にして私は……これじゃ蛇女と変わらないじゃないか。私の馬鹿。
 一度は蓮夜さんと春雷君との時間を大切にするって決めたはずなのに。

「ごめんなさい」
 誰に許してもらおうというわけでもないが、とにかく謝りたかった。

「過去はいくら悔やんでも変えられないよな。今回のこと忘れるなよ。蓮夜と春雷のこと頼むぞ」
 リクさんの顔がどことなく和らいでるように見えた。
 そして前にも春紅さんに二人のことをくれぐれも頼むと言われたことを思い出し、私は今度こそ蓮夜さんと春雷君の面倒をちゃんとみると決意した。

 その後、蓮夜さんと春雷君と合流。

「そういやリク、鬼が言ってたんだが白虎に封印されたって。なにか知ってるか?」
 蓮夜さんがリクさんに聞く。

「ああ、お前と出会うずっと前のことだ。俺も関わっていたがあまり思い出したくなくてな。黙っててすまん」
「そうか」
 蓮夜さんはリクさんにそれ以上聞かなかった。
 リクさんのすぐ後ろで沈んだ目をするマキノさんの姿がちらと見えた。

「それにしてもあの白い渦が空狐様だったとはな。俺と春雷を現世に導いてくれたのは空狐様だったのか」
 蓮夜さんが話題を変える。
「俺も空狐様を見たのは初めてだ」

 あ、そういえば前に春紅様に白い渦のこと話したらすっごい納得したような顔してたっけ。
 春紅様は蓮夜さんと春雷君を助けたのが空狐様だって確信してたのね。

 まだまだ謎はあるけれど、ひとまず私と蓮夜さんと春雷君ははるの荘へ帰ることにした。

11話 決着 そして現世へ

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