「もしかしてまた松本君を狙って!?」
「わからん」
リクさんの知らせにより、蛇女がまた現世に来たのではないかという可能性が……。
「香穂、仕事遅れるぞ」と、蓮夜さん。
「あっ!リクさん、なんのおかまいもできなくてすみません」
「気にするな」
会社に行く道すがら。
大丈夫だよね。今日は蓮夜さんも休みだしリクさんもいるし。
蓮夜さんたちの身を案じるけど、まさか自分が狙われるなんてこの時は思いもしなかった。
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お昼、いつものように松本君と食べる。
「んー、やっぱり思い出せない」
先日から彼はずっとこの調子だ。
おそらく蛇女のことを思い出そうとしてるのだろう。
騙されたとはいえ、心惹かれた相手だ。記憶は消されても彼にとっては大事な思い出だ。
と思いつつも「そんなに考え込んでたら新しい出会い逃しちゃうよ!切り替えていこう!」
ごめんね松本君。すべてを知っていながらおしえてあげられなくて。
そんな私の励ましの言葉に彼は苦笑した。
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仕事が終わり、今日も一日何事もなく帰宅。
のはずだった。
うぅ~さむっ。
もうすぐクリスマスかぁ。特大ケーキでも買っちゃおうかな。春雷君喜びそう。
春雷君の喜ぶ顔を思い浮かべながら帰り道を歩いていると。
「あの、もし?」
「はい?」
すごくきれいな女の人に声をかけられた。長くてきれいなアッシュブラウンのストレートヘアに端正な顔立ち。真っ白なロングコートが女性の美をより際立たせていた。
「突然すみません、でも放っておけなくて。憑いてますよ」
「えっ!?」
この人霊媒師がなにか!?霊が見えるの?でも助かった。コンビニ寄ってこ。
「おしえてくださってありがとうございます。コンビニでもフラフラするんで」
その場を離れようとするけど、心配だと言うので女の人もなぜかついてきた。
コンビニを出た後。
「あなた」
「はい?」
「あなたからもののけの匂いがするわ」
ギクッ 適当に流してさっさと帰ろう。
「お線香の匂いかな~、あ、私葬儀会社で働いてるんです。では急ぎますのでこれで」
「お待ちになって。あなた、恋をしてるでしょ。それも報われない片思い」
え……。
「びっくりさせちゃってごめんなさいね。私占い師をしてるの。これもなにかの縁だわ。よかったらみてあげる」
ちょっと寄り道するだけ……。
近くにあったファストフード店に一緒に入った。
「私は白川」
「藍原、藍原香穂といいます」
「藍原香穂さんね。じゃあさっそくみるわね」
白川さんはきりりとした瞳で私の顔をじっと見つめた。
「片思いの相手とは知り合って間もないのかしら。友達以上でもないかんじ」
「えぇ、まぁ」
ただの同居人ですから。
白川さんはさらにつづける。
「なにか人とはかけ離れた別の生き物……このままじゃ関係は進展しないわね」
そりゃまぁ人間ともののけですからね。結ばれないですよ。
「でも、あなたの努力次第で絶対に結ばれる未来が見えるわ」
「えっそれは具体的にはどんな努力をすれば」
その時急激に瞼に重みを感じた。
朦朧とする意識の中で白川さんの声だけがはっきりと聞こえる。まるで耳元で囁かれてるような……。
「相手がもののけならあなたももののけになっちゃえばいいのよ」
それは悪魔の囁きだった。
「もののけ界のはるか山奥にある滝壺に水神様が祀ってあるの。そこへ行けばどんな願いも叶えてくれる。あなたがもののけになったら好きな殿方と何百年もずーっと一緒にいられるのよ。どう?行ってみない?」
私はこくりと頷いた。
それからはどう店を出てどこを歩いたのかまったく覚えていない。
ようやく意識がはっきりした頃には森の中にいた。
はっとして。
水神様を見つけなくちゃ!
欲に溺れて周りが見えなくなった奴は嘘でもそれにすがりつく
いつかのリクさんの言葉を肝に銘じたはずなのに、この時は頭からすっかり消え去ってしまっていた。