松本君が無断欠勤して3日が経った頃、私はいつものように仕事を終わらせ帰路につく。
今日は主任が松本君のアパートに行ったけどいなかっと言っていた。
まだ戻ってきてないんだ……。
そうこう考えてるうちにはるの荘へ帰ってきた。
「ただいま」
「よう」
「リクさん!」
リクさんがキッチンで蓮夜さんと餃子を作っていた。
「これなかなか難しいな。上手く詰めれないぞ」
リクさんは餃子の皮に肉を詰める作業に一生懸命だった。
なぜ餃子……。
「香穂おかえり。恭蔵さんが商店街の福引で手作り餃子キットを当てたというからもらったんだ」と蓮夜さん。
「リクの変」キャッキャと笑う春雷君。
「リクさん、松本君どうなりました?」
「あの人間なら心配ない。今回は蛇女に騙された被害者ということでお咎め無しだ。今頃自宅にいるだろう」
よかった。安心して私もさっそく餃子作りを手伝った。
餃子の皮に肉を詰めながら「松本君はどうしてもののけ界に?」彼があそこにいた理由がどうしても知りたかった。
「どうやら蛇女に惚れちまってな。『私を人間にしてくれたらずっと一緒にいられるわよ』とかなんとか言われて祠に祀ってある水晶玉を取ろうとしたんだ。水晶玉には妖力を倍増させる力があるんだが、蛇女には扱えないんだがな」
「蛇女ってもしかして那澄という奴か?」と、蓮夜さん。
「ああ、そういえばそういう名前だったな。知ってるのか?」
「昔しつこくつきまとわれたことがある。そもそもどうやってこっちの世界に来れたんだ」
「尋問してみてわかったんだが、鬼の亜我奴という奴の力らしい」
「亜我奴……聞いたことがない名だ。リク、お前たしか昔鬼に」
「昔の話だ」
リクさんは蓮夜さんの言うことを遮った。
「蛇女は鬼に心酔してる。ありゃもう洗脳だ」
そういえば前に彼女とケンカしたって言ってたわね。あれって蛇女のことだったんだ。
ああ~あの時ちゃんと話聞いてあげればよかった。
でもその蛇女も捕まったみたいだし、あとは鬼のアガドという奴をなんとかすればいいのよね。
「で、香穂、松本という人間のことだが」リクさんが相変わらずきつい目をして私を見る。
「少々記憶を消した」
「え」
「彼は蛇女に精神をやられて少々衰弱してたからな。記憶を消したほうが楽になれるだろう」
「そのほうが彼のためだ。あいつのしつこさは尋常じゃないからな」蓮夜さんも同調する。
「蛇女は今どこに?」
「投獄されたよ」
「鬼の居場所は?」
「それだけは絶対に吐かないんだ」
「香穂、心配することはない。香穂に危険が及ぶことはないから」と、蓮夜さんが優しい声色で言うので安心する。
話が一段落ついて餃子を焼いてみんなで食べた。
おじさんにもおすそわけして、リクさんにも帰り際にお土産として少々あげた。
「悪いな、突然押しかけたうえに手土産まで。春坊またな」そう言ってリクさんは壁の中をくぐり、もののけ界に帰っていった。
「あの、蓮夜さん」
「ん?」
「いつも出入りしてるこれって妖怪とか入ってこないんですか?」
「ああ、心配ないよ。前に猿のもののけに後をつけられたんだが、通り抜けられなかった」
「そうなんですか……リクさんが、鬼の力で蛇女は人間界に来れたと言ってましたよね。他の妖怪が来ないが心配です」
「香穂が狙われることはないから大丈夫だよ。もし狙われたら俺が守る」
「えっ」顔が一気に火照っていくのがわかった。
「片付けますね」
もう~~~私のバカバカ!蓮夜さんにはそんな気ないのはわかってるけど。
俺が守る 俺が守る 俺が守る
そのたった一言でこんなにドキドキするなんて……でも嬉しい。
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次の日、職場で元気になった松本君に会えてその姿に安堵した。
それから2ヶ月が経ってクリスマスが近くなってきた頃、リクさんが血相変えてこちらに来た。
「大変だ!蛇女が脱獄した!」
それは新たな事件への幕開けだった。