無事に霊が離れて部屋で一息ついて蓮夜さんに聞きたいことが。
「蓮夜さんって除霊とかしないんですか?」
ごはんの支度をしてた蓮夜さんの耳がピクッと動く。
「ああ」と、言ったきり何も話さない蓮夜さんを見て、これ以上は聞いてはいけない気がした。
あともう一つ聞きたいことが。
「あの、朝、ポストの前にいた女性って知り合いですか?」
「もののけ界から来た白虎だよ」
やっぱり……そんな気はしてた。
蓮夜さんは険しい顔をしてさらにつづける。
「三ヶ月くらい前からこっちに住んでる。春雷を一度もののけ界に戻したいと言ってるんだ。母親に会わせるために」
会ったほうがいい!と、言おうと思ったけど、三ヶ月前から渋ってるってことは何か理由があるからよね。
「……何か事情が?」恐る恐る聞いてみた。
「俺は野狐、春雷の母親は白狐。本来なら結ばれてはいけない身分の違う立場なんだ。駆け落ちして一度は夫婦の契りを交わしたものの、彼女の父親が執念深くてね。まだ生まれたばかりの春雷と彼女を引き裂いて、俺の妖力まで奪って彼女を幽閉した。俺と春雷はひっそり暮らしてたが300年近く経っても今以上に成長しない春雷を見て周りの奴らは、呪われた狐、などと言い出して風当たりが強くなって居場所がなく途方に暮れてたらある日真っ白な渦が現れて『ここをくぐれ』という声がしてくぐったらこの部屋にたどり着いたというわけだ」
そんな大変な事情があったのね……春雷君が300歳近くってのも驚き……蓮夜さんはそれ以上ってことよね。
苦労してきたんだな……。
蓮夜さんが除霊できない訳もわかった。
「話してくれてありがとうございます」
話してくれたのはいいものの、私にできることは……。
そう思っていたとき、ピンポーンと、呼び鈴が鳴った。
ドアを開けるとマキノさんだった。
「今朝はどうも」と、笑顔で言うマキノさん。
「なんの用だ」と、蓮夜さんが険しい顔つきで言う。
マキノさんは、耳と尻尾を隠さず狐のままで出てきた蓮夜さんと私を見て。
「その様子だと一通り話はしたって感じかしら」
見計らって来たのか……このお姉さん。
「春雷はそっちにはやらん」と言う蓮夜さんに、マキノさんは「なにもずっとというわけではないのです。春紅様に一目会うだけで」
春紅様?春雷君のお母さんの名前かな。
二人の会話に割って入ってはいけない気がして黙ってることにした。
「春紅様はもうじき神使として霧森の社(むしんのやしろ)に行かれます。そうなればもう会うことはできないのです。どうか一目だけでもどうか」
マキノさんは今にも泣きそうな顔をして必死に蓮夜さんに言う。
もう見てられない!
「蓮夜さん、会わせてあげましょうよ。もう会えないって、春雷君のたった一人のお母さんですよ」
マキノさんの必死さに触発されてつい感情的になってしまった。
「かーちゃん?」
私たちの話し声が聞こえたのか春雷君がこちらに来た。
「かーちゃんに会えるの?」と、言う春雷君に蓮夜さんはしゃがみこんで、「かーちゃんに会いたいか?」と聞くと
「会いたい!」と満面の笑顔で言う春雷君。
その顔を見てると涙が出そうになる。
蓮夜さんは意を決した顔つきになり「では一日だけ」と、マキノさんに言った。
「ありがとうございます!春紅様も喜びます」と、安堵した笑みを見せるマキノさん。
「それでなのですが、藍原さんもご一緒に」
え!?
「わわわわ私も!?」驚きのあまりきょどってしまった。
「ええ、春紅様もお会いしたがっております」
蓮夜さんは顎に手をあてて私を見ながら「まあ、問題ないだろ」
ないんかい!
こうして次の休みにもののけ界に行くことになった。