新しい担当の大村さんは人間性的にはまるで問題のない人だった。
物腰も穏やかだし人当りもいい。
他の作家に関する悪口や噂話もしないし、作品をきちんと読んだうえでポジティブな感想もくれる人だ。
作家によってはこういうタイプの担当者と、所謂「お友達感覚」になりがちではないだろうか。
仕事のやり取り以外にもよくメールやLINEで交流したり、打ち合わせのついでに食事に行ったりなど密な関係になるだろう。

しかし私は元々人づきあいが苦手なのと、ビジネスライクな交流以上に関係を深めたくないのがあり最低限のやり取り以外は行わなかった。
正直担当からはそっけない作家と思われていたかもしれないが、まあこれに関しては特に思うことはない。
とにかく漫画関係で人付き合いを広めたくない、他人と関わりたくないのはデビューから仕事を辞めるまで一貫して決めていたことだ。

そんな中、私の周辺で生じ始めたのが『漫画家による派閥』だった。
同じ会社で連載している作家であっても、全員が平等で対等ではない。
一番わかりやすい例だと、人気作家と不人気作家の違いだ。
毎回PV数も多くファンからの応援コメントもどっさり貰っている、ランキング上位の人気作家。
彼らは会社にとっても大事な人材だろうし、当然サービスにとっての『顔』だ。

そして当然、PV数もコメント数も伸びない、ランキングにも乗らない不人気作家も存在する。
作風によってはどうしても読者が付きにくいし、子供の読者が多いコミックコミックでは青年向けの作品が不利だ。
単純明快な学園青春ものや、キラキラとした女子向けの恋愛ものじゃないとウケが悪い。
私の作品は人気作か不人気作かで言ったら間違いなく不人気枠に入る。
しかし、コメントの数は毎回一定して少なくはなかった。
PV数やランキングが跳ねない分、固定ファンが熱心に応援してくれていた。

作品の人気度で『作者の分類』がなんとなく分かれてしまうのは仕方がない。
問題は『作者の性格』によって生じる派閥だった。
サービス開始から数か月たつと、コミックコミックで連載を持つ作家がタイプ別に派閥を作るようになってきた。

派閥の中で最も厄介だと感じていたのが、『自分を可愛がってもらうためにとことん会社や編集に媚を売り、ごまをすり、これでもかと持ち上げて連載の寿命を延ばしてもらおうと思う作家』だった。
もちろん仕事をいただく身としては、クライアントに失礼の無いよう接するのは当然である。
しかしこれは礼儀や常識の話だ。

この作家たちはとにかくこれでもかというほど太鼓持ちをする。
「コミックコミック最高!日本一!」と褒めたたえ、編集のご機嫌を取っていた。
まあこれくらいなら、処世術としては間違いではないかもしれない。
誰だって自社や自社サービスを褒められて悪い気はしないし、文句の多い作家よりは扱いやすいだろう。
そしてこの派閥に居る作家は、ランキング上位から中堅あたりのポジションに居る人が多かった。

問題は、彼らが「自分が気に入られるために会社や編集を褒める」から「自分の株を上げるために他の作家を攻撃し、ライバルを下げる」行動を始めたことであった……。

pagetop