担当の秋田さんはいわゆる「悪気なく他人を傷つけるタイプ」だった。
なんの悪意もなく、ケロっとした態度で他人が嫌な気持ちになる言葉を放つ人だ。

読者に対する悪口は当たり前で「どうせ描けもしないくせに文句ばっかり言っている奴ら」「たかが無料漫画アプリ相手にプロの批評家気取りで偉そうな上からコメントをするクズ」「わざわざアンチ活動する為だけに低評価するのに必死になる暇なバカ」などなど、打ち合わせのたびにこのような言葉を聞かされた。

読者相手だけではない。
時折他の作家に対するあまりよろしくない話も聞かされた。

「あの作家は30代後半の男だがこれまでに一度も職歴がなく実家に寄生している。やっと作家デビューできたから今の連載に必死に食いついている」
「あの作家は専門学校まで行ってイラストの勉強をしていたが全く就職先が見つからなかった。卒業間近なのに仕事が見つからない追い詰められた立場だったので、連載の話を持ち掛けたらすぐに飛びついた」
「あの作家はいい年した社会人なのにまともな受け答えすらできない。電話応対もてんで駄目だし、本社で話をする時は母親まで一緒についてきた」

と、まあこのような話だった。

「そういう人たちに比べたら山田さんはしっかりしているしまともな作家さんですよ」

秋田さんなりに褒めているつもりかもしれないが、散々他の作家の悪口を聞かされた後では喜ぶ気になれない。
何故なら、あちこちで人の悪口を言いふらす人は私のいないところでは私も悪く言っているに違いないからだ。
別の作家と打ち合わせ中には、「山田さんはね~」とよからぬ噂を吹き込んでいるかもしれない。

それ以外にも少しずつ嫌な気持になる言葉を放っていた。
私の親は公務員なのだが、恐らく漫画家という職業を持ち上げるために言ったのだろう。

「公務員なんて何もしなくても立派な給料だけは貰える給料泥棒だ」

と言った。
そんな職業より才能で稼げる漫画家の方が立派だと続けていたが、少なくとも身内の職業を馬鹿にされながら褒められてもいい気はしない。

また、秋田さんは喫煙者だったのだが打ち合わせ中も必ずタバコを吸っていた。
そのため、打ち合わせの場所は必ず喫煙可の店を探さなければならなかった。
私はタバコの匂いが苦手なのだが、こちらからやめてほしいと図々しく頼める立場でもないので我慢するしかない。
仮に頼まなくても、対面して仕事の話をするシーンなら相手のためを思って喫煙は控えるものだと思うのだが……。
少なくとも秋田さんには相手に対する気遣いがないようだった。

ある時、突然担当者が変更された。
秋田さんから大村さんという別の担当者に代わったのだ。
大村さんは物腰も柔らかく、丁寧な態度で接してくれる男性だった。
正直秋田さんから大村さんに代わり、私は内心ほっとしていた。

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