■ とある居酒屋 夜

 居酒屋の厨房内で店長の男性が胸から血を流して倒れている。
 その場には迷宮一郎と長門永誓の他、五人の関係者がいる。
 五人は全員、居酒屋の従業員である。

迷宮「お前が犯人だ!」

 迷宮一郎は真剣な眼差しで床に倒れている被害者の店長……ではなく、その側に落ちていた秋刀魚を指差しながら叫んだ。
 呆気にとられる従業員達。

永誓「先輩、それはまだ早いですから」

 永誓は迷宮一郎にアンパンを手渡すと、近くにあった椅子に座らせる。

永誓「細かい仕事は僕に任せて、先輩はそこでアンパンでも食べていてください」

迷宮「ん、分かった」頬を染めながら嬉しそうにアンパンを食べ始める。

永誓「それで、状況を確認させていただきたいのですが?」

女性A「は、はい。仕事の時間になったので、バイト仲間の皆と一緒に厨房に行ったところ、店長が胸から血を流して倒れていたんです」

 他の四人の従業員達も頷く。

永誓「なるほど。となると、皆さんには全員アリバイがあるということですね? ただし、全員がグルでないと仮定するなら、ですが」

男性A「お、俺達が店長を殺したってのか!?」

男性B「そんなわけないだろう!? 確かに店長はパワハラモラハラなんでもござれの外道なクソ野郎で、何度も殺してやりたいとは思っていたけどもさ!」

女性B「日常的にセクハラされまくって、飲み物に入れてはいけないお薬を入れてやろうと思ったことは一度や二度じゃないけれども、それでも私達は殺していません!」

女性C「そうよそうよ! いつでも復讐出来るように完全犯罪の計画書と凶器は用意していたけど、私はまだやっていないわよ!?」

 永誓はふむう、と頷いて見せる。

永誓「皆さん、動機だけは十二分にあるということですね」

 五人の従業員達は戦慄した表情を浮かべる。

永誓「しかし! 皆さん、ご安心ください。もう既に犯人は分かっていますから」

 五人は「ええ!? それは誰なんですか!?」と驚いた声を張り上げる。

永誓「既にこちらの迷宮刑事が言ったじゃありませんか。犯人はお前だ、と」

 永誓はそう言いながら、白い手袋をはめると被害者の近くに落ちていた秋刀魚を拾い上げる。

永誓「犯人はこの秋刀魚です」

 永誓の言葉に、五人の従業員達は唖然となる。

女性A「あの、もしかしてふざけてますか?」

永誓「いいえ? 僕は至って真面目ですよ?」

男性B「なら、その秋刀魚が自らの意志で店長の心臓を一突きにして殺したっていうのかよ!?」

永誓「秋刀魚の意思は関係ありません。重要なのはこの秋刀魚が被害者の命を奪ったことです」

 ざわつく店内。

永誓「先輩? 先輩はどうしてこの秋刀魚が犯人だと思ったんですか?」

迷宮「おかしなことを聞くな? そいつが被害者を殺したからそう言ったまでだよ。永誓、お前は本当に馬鹿な奴だな?」あはは、と笑い声を上げる。

 その時、永誓は笑いながら静かに怒りを湛えた。

男性A「そのアンパンを食っているだけのおかしな刑事が何だってんだ?」

永誓「何か勘違いされているようですけれども、先輩……迷宮刑事はとても優秀な刑事なんですよ? まあ、御覧の通りポンコツが過ぎますがね」

 五人の従業員達は頭の上に疑問符を浮かべる。

永誓「迷宮刑事は様々な事件を迷宮入りにすることで有名ではありますが、今まで一度たりとも犯人を違えたことはありません。なので、先輩が言うからには秋刀魚が犯人なんでしょう」

女性C「そんな理屈が通るとでも?」

永誓「でも、それが真実です」

男性A「それじゃ、どうやってそのフニャフニャの秋刀魚で店長を殺せるってんだよ!? 納得のいく説明をしてもらおうか!?」

永誓「その前に一つ質問がありますが、店内の壁にメニュー表が張り付けられていますよね?」

 永誓は壁に貼られたメニュー表を指差す。

メニュー表『新物! 今だけの特別価格。新物秋刀魚の塩焼き 一皿500円!』と書かれている。

女性A「そ、それが何なんですか?」

永誓「あれ、嘘ですよね?」

 その瞬間、五人の従業員達は顔を強張らせた。

永誓「今年は例年以上に秋刀魚は不漁で、どんなに安くても仕入れ値は一匹千円以上するはず。物理的にあの値段で提供することは不可能なんですよ」

 五人の従業員達は蒼白しながら絶句する。

永誓「新物秋刀魚をうたって、安い冷凍秋刀魚を使っていますよね?」

男性B「そ、それが今回の事件と何の関係があるってんだよ!?」

永誓「大ありですよ。皆さん、秋刀魚を凍らせたらどうなるか想像してみてください。とても太く長い秋刀魚が凍ったら、凶器になると思いませんか?」

 騒然となる店内。

永誓「事件のあらましはこんな感じです。店長は冷凍庫から秋刀魚を取り出して解凍しようとした。そこで何かの拍子で転んでしまい、偶然手に持っていた秋刀魚が胸に突き刺さってしまった。痛みにもがく店長は秋刀魚を抜きますが、それによって出血し、結果、出血多量で亡くなってしまったと考えるのが自然ではありませんか?」

 五人の従業員達は目を点にする。

女性A「ということは、今回の事件は……?」

永誓「事故死、ということですね」ニッコリと微笑む。

五人「よっしゃ!!!!!」と喜ぶ五人の従業員達。

 その時、厨房から焦げた匂いと煙が漂って来る。
 永誓が厨房に目を向けると、いつの間にか迷宮一郎が秋刀魚を焼いていた。

迷宮「秋刀魚は塩焼きが一番だな!」

永誓「あの、先輩? 何をなさっているんですか?」

迷宮「アンパンだけじゃ足りなかったから秋刀魚を食べようとしているんですが、何か?」

永誓「そんな当然みたいな言い方をされましても……?」

女性A「あの、迷宮刑事さん? 一つお聞きしてもいいですか? 何で貴方は一目で事件の真相を見抜けたんでしょうか?」

迷宮「聞いたからだよ?」

迷宮A「聞いた? 誰からですか?」

迷宮「そこのオッサンにだよ?」

 迷宮一郎は倒れている被害者の店長を指差す。

女性B「それはどういう意味?」

迷宮「今はお前等の後ろに立って、そこの女性のお尻を触っているぞ? 何やら身体が透けて血塗れだが」

 五人の従業員達は蒼白し、戦慄する。

迷宮「一人じゃ寂しいから、今日、皆の家についていくよ、だって? ハハッ、仲良しさんなんだな」

 すると、永誓は笑顔のまま迷宮一郎の手を取る。

永誓「そういうことですので、皆さん、ごきげんよう!」

 永誓はそのまま慌てる様に迷宮一郎の手を取ってその場から逃げ出した。
 その後、五人の従業員達も悲鳴を上げながら逃げ去るのであった。

第二話のシナリオ 『冷凍秋刀魚は凶器に入りますか?』

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