■ 大広間 監禁部屋
体育館位の広さの大広間で倒れている迷宮一郎と長門永誓。
そこには他にも二十人程度の人間がいる。
目が覚め、起き上がる面々。
永誓「ここは何処なんですかね? 見覚えの無い場所ですが……?」そう言いながらポケットを確認する。「どうやらスマホは取り上げられているみたいですね」
迷宮「ここが何処だか分からんが、時間だけは分かるぞ? 今、夕方の三時だ」
永誓「へえ、時計でも隠し持っていたんですか?」
迷宮「三時のおやつの時間だからだ」涎を垂らしながら腹の虫を盛大に鳴らす。
永誓は、ああ、なるほど、と頷く。
すると、突然、スピーカーから謎の人物の声が響いて来る。
それと同時に、大広間の奥の壁に設置されていた巨大なモニターから、仮面を被った謎の人物の姿が映し出された。
犯人A「突然のことで皆様、大変驚かれているかと思います。誠に勝手ながら、皆様を拉致させていただきました」
ざわつく周囲。
犯人A「これから、皆様にはゲームに参加していただきます。なお、拒否権はございませんので、予めご了承ください」
永誓「へえ……先輩、どうやら僕達、拉致されちゃったみたいですね?」
迷宮「今から皆でゲームをするのか? どんなゲームだ? ドッジボール? 椅子取りゲーム? フルーツバスケットかな?」ワクワクしながら頬を染める。
永誓「あー、多分、あまり楽しいものではないと思いますよ?」
迷宮「そうなのか!?」ガーン、とショックを受ける。
永誓「多分、彼は次にこう言うと思います。これから僕達に殺し合ってもらう、とね?」
迷宮「へー???」
迷宮一郎は何も理解していないような表情で呟く。
永誓〈あ、でも、もしそうなったら、先輩一人でここにいる人間くらい全員、簡単に殺せちゃうから、一方的な殺戮劇になってしまいますね〉
永誓は困ったような表情を浮かべる。
犯人A「皆様には、これから、ちょっと、愛し合ってもらいます」
たちまち、迷宮一郎を除く全員が凍り付いてしまう。
永誓「殺し合うじゃなくて、愛し合う???」動揺した表情。
犯人A「我々は恋のデスゲーム運営委員会と申します。これから、皆様には恋をしていただき、互いに愛を育み、カップルを作っていただきます」
すると、永誓は手を上げてモニターの人物に話しかけた。
永誓「あの、一つよろしいでしょうか? 殺し合うのではなく、愛し合わせるのはいかなる意図があってのことでしょうか?」
犯人A「それが仕様だからです」
永誓「仕様、ですって?」
犯人A「何故なら、我々は恋のデスゲーム運営委員会のBL担当だからです」
再び、その場にいた者は迷宮一郎を除いて凍り付く。
犯人A「それでは始めましょうか、恋のデスゲームを。ちなみに、カップル不成立の者はすべからく処刑致しますので、頑張ってカップル成立を目指してくださいね。カップル成立の条件としては、キスのもっと先にある最果ての駅に到着した場合に限ります」
周囲がざわつき始める。
迷宮「なあ、永誓? びーえるとか、かっぷるとかって、何のことだ?」
永誓「あー、うん。要は男同士仲良く遊んだりベッドの上で相撲を取るってことですよ?」
迷宮「相撲!? オレ、相撲は大好きだぞ!? なら、永誓。お前はオレとかっぷるになれ。これは先輩命令だ。そして一緒に相撲をしようぜ」
永誓〈おやおやおや。これはちょっと非常にまずい展開になる予感がしますね? どうしましょっか?〉
犯人A「時間制限を設けさせていただきます。これから一時間以内にカップルを成立させ、そこにある子作り部屋に入ってもらいましょう。一時間後、誠に勝手ながらその大広間には致死性の高い猛毒ガスを流させていただきますのでお気を付けください」
永誓「どうやらあまり時間は残されていないようですね。先輩、どうにかして外に出る方法はありませんか?」
迷宮「相撲は?」
永誓「今度、山に行って熊さんと相撲をとってみてはいかがですか? その時は僕がお弁当を作ってあげますから、一緒に行きましょう」
迷宮「熊さん!? 分かった。それじゃ、とっととここから出ておやつを食べようか」
迷宮一郎は永誓の手を取ると、近くにあった部屋に向かう。
ドアには『子作り部屋 一号室』と書かれている。
永誓「おやおや、先輩って意外と大胆なんですね?」クスクスと笑う。
そうして、二人は子作り部屋一号室に入る。
■ 子作り部屋 一号室
二人が部屋に入ると、そこはまるでラブホテルの一室の様な光景が広がっていた。
部屋にはモニターが備え付けられており、その画面から別の仮面を被った人物の姿が映し出された。
犯人B「まずはカップル成立、心よりお喜び申し上げます。では、ここから御二人には心行くまでまぐわっていただきます。クリア条件はまぐわいの後、妊娠検査薬を使用し、反応があった場合に限ります」
永誓「ご存知ですか? 男性が妊娠検査薬を使用して反応があった場合、それってガンに反応したってことなんですよ?」
犯人B「そんな家庭の医学的なうんちくはどうでもいいですから、早くまぐわいを始めてください。ハアハア、さあ、どっちが受けで、どっちが攻めになるんですか?」
永誓「僕はどちらかと言えば、愛されるより愛したい方ですかね?」
すると、迷宮一郎はモニターの前に行くと立ち止まる。
迷宮「ここだな?」
そう呟くと、迷宮一郎は身構える。
犯人B「何をなさるか分かりませんが、そのモニターを破壊しても無駄です。部屋には幾つものカメラが備え付けられておりますのでね。そんな無駄な努力をするよりは、妊娠検査薬が反応するまで必死にまぐわった方がまだ助かる可能性はあると思いますよ?」
迷宮一郎は犯人Bを無視すると、そのままモニターに正拳突きを炸裂させた。
次の瞬間、モニターは壁ごと破壊される。轟音が響き渡り、二人の視線の先には犯人達の監視部屋があった。
二人の姿を見て驚き戸惑う犯人達。
犯人A「な、何が起こった!?」
永誓「先輩を閉じ込めたいなら、鋼鉄の檻でも用意するんですね……って、多分、それでもあっさり壊しちゃうか」
迷宮「永誓? こいつらは誰だ? 変なお面を被っているが……?」
迷宮一郎は物欲しそうに犯人達が被っている仮面を見つめる。
永誓「先輩。今度お祭りに行ったら猫ちゃんのお面を買ってあげますから、今は犯人を逮捕してください」
迷宮「猫ちゃんのお面!? 分かった。こいつらを逮捕するぜ」
すると、犯人Aと犯人Bは銃を身構える。
犯人A「ば、化け物め! これでも食らえ!」
室内に何発もの銃声が響き渡る。
犯人Aと犯人Bは弾丸が尽きるまで引き金を引き続けた。
硝煙が室内に立ち込める。
迷宮一郎は長門永誓の前で仁王立ちになっていた。
永誓「せ、先輩!? だ、大丈夫ですか?」
すると、迷宮一郎は永誓に振り向くと、優し気な笑顔を浮かべて呟いた。
迷宮「駄目な後輩を守るのが先輩の務めだからな……。永誓、怪我がなくて良かった」
迷宮一郎はそのまま床に倒れこむ。
永誓「先輩!?」
長門永誓は迷宮一郎に駆け寄ると、驚愕に顔を強張らせる。
永誓「な、何てことだ……!? 全くの無傷だって!?」
犯人A「へ!? 無傷って、どういうこと!?」
犯人B「全弾外れた……わけないよな?」
永誓「いえ、むしろ全弾命中している感じですね。服が焼き焦げただけです」
流石の長門永誓も動揺した様子を見せる。
迷宮「お腹が空いて動けない……」
永誓「はい!? 先輩、もしかして空腹で動けないだけなんですか!?」
犯人二人「ば、化け物だ!!!!!!」
慌てふためき、犯人Aと犯人Bは逃げ出す。
永誓「何処に行くんですか? 逃がしませんよ」
長門永誓は素早い動きで二人の前に躍り出た。
永誓「僕の先輩を傷つけた報いは受けてもらいますよ?」
犯人B「さっき無傷だって言ったじゃんかよ!?」
永誓「皮膚がちょっとめくれていました。というわけでお覚悟を」
そう呟くと、永誓は怒りに引きつった表情で犯人達をボコボコにする。
犯人達の悲鳴が響き渡る。
■ 屋外 夜
無数のパトカーが周囲を取り囲み、ボロボロにされた犯人達が警官達に連行されて行く。
迷宮一郎はアンパンに貪りついている。
永誓「まさか銃弾を撃ち込まれたのに無傷とは、流石の僕も驚きましたよ」
迷宮「そうか? あんなの母ちゃんの鉄拳に比べたら蠅にたかられたようなもんだぞ?」
永誓「先輩のお母さんって、どんな方なんですか?」
迷宮「俺の母ちゃん? そうだな……」
すると、迷宮一郎は何かを言いかけるが、突然、顔を蒼白させるとガクガクと全身を震わせた。
迷宮「化け物? 羅刹? 鬼? そ、そそそ、そんなところだ」
永誓〈先輩をこんなに怯えさせるお母さんって、何者なんですか?〉戦慄する。
迷宮「そんなことより、早く帰るぞ、永誓」
永誓「はい、分かりましたよ、先輩。それで、今晩は何を食べたいですか?」
迷宮「甘口カレー」涎を垂らしながら目を輝かせる。
永誓〈毎度思いますが、いつになったら毎日食べているものがカレーではなくハヤシライスだと気付いてくれるんですかね?〉
長門永誓は微笑すると迷宮一郎を追いかけるように歩き始める。
永誓「それじゃ、今日は特別にカツカレーにしましょうか?」
迷宮「給料日じゃないのにいいのか!?」興奮した表情。
永誓「今日、頑張ったご褒美ですよ」
迷宮「やったぜ! 一ヶ月ぶりのカツカレーだ!!」
迷宮一郎の喜んだ声が響き渡るのであった。