学生の頃、スーパーで夜間アルバイトをしていました。


・野菜の見分け方

アルバイトを始めた当初、実家で暮らす学生だったので、料理は一切行わず、葉もの野菜の見分けがつきませんでした。

葉もの野菜にはバーコードが付いていなかったので、ボタンを押すようになっていました。

見分け方は『ほうれん草』は根っこがピンク、『まな』は根っこが白、『チンゲン菜』は丸い形、『水菜』は葉がギザギザと、店長に教えてもらっていました。

それ以外にも小松菜、春菊、まんば、セロリ、ふき、にんにくの芽……。

キノコ類も『しいたけ』と『えのき茸』ぐらいしか分からなかったので、お客様に

『この野菜、何でしたっけ？』

と、聞いて教えてもらっていました。


・消費税

消費税が３％だった当時、３０円以下の商品１つだけだと消費税は０円でした。

お店に駄菓子コーナーがあったので、小学校低学年ぐらいの子が３０円と駄菓子をレジに持ってきて

『これ、消費税取られない？』

と、聞いてくるのが微笑ましかったです。


この『消費税が３％だった』頃、毎晩９時ぴったりに必ずやって来る大家族がいました。

お父さん、お母さん、子ども４人の６人家族。

私が働いていたスーパーは、夜の９時を過ぎると、お惣菜や弁当が全て半額になっていました。(割引シールを貼るのではなくて、『全品半額』の札を立てていました)

お総菜のコロッケは税抜き５０円だったので、半額になると、１個２５円。

６個まとめて買うと、消費税が掛かるけれど、１個ずつ買えば消費税が掛からない。

家族全員が、コロッケ１個をビニール袋に入れて、レジに並んでいました。(コロッケ以外は買わない)

私もこの『コロッケ家族』がやってくると

『お総菜半額の時間だ』

と、『全品半額』の札を立て、１人１人、レジ打ちをしていました。
(毎回、お釣りを渡すのが大変だったな……)

６個まとめて買うと、消費税が９円。

毎日この方法で買えば、１年で３２８５円の節約。

『ちりも積もれば……』ですね。



・セコいバイトくん

夜間バイトに入るのは、ほぼ、近所の大学に通う学生さんでした。

夜間バイトには、夜食として廃棄前の売れ残り弁当を１点持って帰っても良いという、ありがたいルールがありました。

私は実家住みなので、弁当の代わりに廃棄前の紙パックジュースをもらって帰っていました。

独り暮らしの大学生(特に男子)にとって、賄いは嬉しいものです。

大学生の男子達は、うなぎやお寿司、カツ丼が売れ残ってくれるのを願っていたのですが、残るのはおにぎりか巻き寿司ばかり……。


すると、お寿司やうなぎなど、自分が食べたい物で売り切れやすい商品を、閉店までお客様に買われないよう『バックヤードに隠す』バイトの学生が現れはじめました。

当然、この行動は店長にバレてしまい店長の大激怒。

その後『期限切れで廃棄する商品は持って帰って良い』というルールは無くなってしまいました。

廃棄する商品は、何故か私が『店長の目の前で棄てる係』になり、弁当をゴミ箱に棄てたり、ジュースや牛乳を店長の目の前で、全てシンクに流していました。

もったいない話です。


・クリスマス

クリスマス当日は、バイトの大学生達、皆、クリスマスパーティーの予定が入っているらしく、誰もシフトに入ろうとしませんでした。

『１人だけでいいから、くじ引きでシフトに入る人を決めて』

と、店長からお達しがあったのですが……、

『星さんは予定が無いでしょ』

と、謎のイメージの決め付けで、勝手にシフトに入れられていました。

クリスマス当日、私も当時付き合っていた彼と会う約束があったのにな……。

仕方がないので、当日は店長と２人きりで閉店までレジ打ちをしていました。

スーパーが閉まるのが夜の１０時で、その後、肉や野菜を置いている冷蔵コーナーにカーテンを掛けたり、レジに入っているお金と売上金が合っているか、お金を数えたり、期限切れの商品を廃棄したりで、帰るのは１１時過ぎになります。

帰り際、店長が

『星さん、今日はありがとう』

と、店長にしては珍しく、売れ残ったチキンを１本、手渡してくれました。

帰り、彼氏がスーパーの駐車場に車を停めて私のバイトが終わるのを待っていてくれてのが救い。

その後、独り暮らしの彼(大学生)の家で、彼が用意していたシャンパンと店長からもらった１本のチキンで乾杯したのも、今考えると良き思い出です。


さて。
ここまで特にキケンな話でもないので、キケンな話を３つほど。


・シャッターを潜り抜ける人

閉店時間になると『蛍の光』の音楽を流してすべてのシャッターを自動で下ろしていくのですが、シャッターが下り始めているのに急いで駆け込み入店してくるお客様が、毎回います。

シャッターを止めるには、レジから少し離れたシャッター横の停止ボタンを押さなければならず、毎回潜り抜けて入ろうとするお客様にドキドキハラハラします。

潜り抜けて、無事、入店したお客様は、急ぐこともなく悠々と買い物を始めます。
中にはギリギリ間に合わず、わざと爪先を挟んでくるお客さんもいるので、一度シャッターを上げなければいけません。

毎日、怪我人が出ないか、ドキドキしながら、お店を閉めていました。


・チンピラおじさん

スーパーに毎晩やってくる、チンピラ風の酔っぱらい客がいました。

足元がおぼつかないほど酔っぱらっているので、レジに来るまで店の棚に何度もぶつかり、商品を落としながらやってくるのです。

いつも大声でぶつかった棚に向かって怒鳴り散らすので、一人でレジを打っている時は、本当に怖かったです。

ある日、1.5Lのペットボトル飲料だけをレジに持ってきました。

『レジ袋にお入れしましょうか？』

『いや、いらん！』


レジ袋に入れない場合は、購入した『しるし』として、お店のシールをバーコードの上に貼る決まりになっていたので、貼ろうとしたら、

『何しよるんじゃ！食べ物にそんなもの貼ったら汚いだろうが！貼るな！ぁあ？』

と、恫喝されました。

『申し訳ございません。購入された『しるし』として貼るものでしたので。では、代わりにレシートをお持ちください』

『そんな物、ゴミになるやろうが！いちいちうるせえわ！』

そう言いながら、酔っぱらいオヤジは1.5Lのペットボトルを片手に、またフラフラと棚にぶつかり、棚に向かって怒鳴りながら帰っていきました。

毎日閉店間際にやってくる、この酔っぱらいオヤジに、いつか殴られるのではないかとドキドキしながら、働いていました。


・チカンVSヤンキー

バイトの通勤手段は自転車でした。

いつも夜間バイトに入っていたので、帰りは夜の１２時を過ぎていました。

田舎の１２時過ぎの道路は、全く人気がなく、真っ暗だったので、なるべく早く自宅に到着するよう、毎日必死で自転車を漕いでいました。

ある日、自転車に跨がったまま信号待ちをしていると、自転車の後部座席がギシッと音を立てて急に重くなり、後ろから荒い息づかいと生臭い空気が漂ってきました。

そっと後ろを振り返ると、白いランニングシャツに白いステテコ姿の、全身白でまとめたのにお洒落感ゼロのオッサンが私の自転車の荷台に跨がっていたのです。

『ぐへへ……。姉ちゃん、可愛いのぅ』

『ぎゃぁぁぁ！』


くっさッ！
めちゃくちゃ酒臭ッ！

オッサンは、

ユーカリの木に掴まるコアラのように

私をがっちりホールドしている状態でした。

そして
おもむろに私の貧乳を揉みはじめました。


ぎゃぁぁぁぁ！


『や……、やめてください！』

(チカンにも敬語で話す、上品なアタクシ)


その時、信号が青に変わったので、
私はぐんとペダルを踏みました。


振り落としてやる～～～！


しかし、オッサンは私にがっちり掴まっているので、振り落とすことができない状態。


しばし優雅な

『サイクリング☆ウィズ・オッサン』

を堪能しました。


『いゃじゃあああああああ！』


私はハンドルを握っているので、貧乳、揉まれ放題。


『やめてくださいぃぃぃ！』

(こうなっても敬語を止めない、清楚なアタクシ)


この光景、
端から見たら実にシュールだと思います。

自転車の荷台にランニングステテコオッサンを乗せ、叫びながら自転車漕いでるアタクシ(弱冠二十歳)


『オラァ！

　オッサン、何しとんじゃ！』


そこに救世主登場。


黒塗りの車に乗った、いかついお兄様達(３人)が私の自転車と並走しながら、車の中からオッサンに向かって怒鳴ってくれました。



『ぴぇぇぇ……』


オッサン、荷台から降りて一目散に逃走。


『オラァ！　待てや！』


逃走するオッサンを車で追う不良たち。


……。
オッサン……、

意外と足早いな……。(他人事)


不良たちに追われ、慌てたオッサンは、横道の畑の中に入っていった。

痴漢したうえ、

人様の畑を踏み荒らすオッサン……、


重罪ですよ。



畑の中に姿を眩まし、これ以上は追跡不能になったため、追うのを諦めた様子の不良たち。

ありがとう、不良たち。
これで安心して家に帰れますー。

……ん？


何だか、不良たちが車を停めて私を待っている様な気がする……。

(オッサンを追跡していたため、わりと遠くで停まっていました)


え？

これって、アタクシがお礼を言いに来るのを待っている状態ですか？


不良たちにお礼……。


謝礼として、100万円要求されたらどうしよう……。


いや、
身体が目的かもしれない。


身体でお礼することになって、３人の不良たちに貧乳揉まれ放題になったら、どうしよう。(妄想が暴走)


でも……

父ちゃんに『ありがとう』と『ごめんなさい』は、必ず言えって言われてるし……。


どうする、ワタクシ。
どうする、どうする？


ポク(考え中)
ポク(考え中)
ポク(考え中)

……チーン！


帰ろう。


お礼を言わずに立ち去るワタクシ。



あの時はごめんね、不良たち。
そして、ありがとう、不良たちー。



無事、自宅に帰還すると、たまたまリビングに父ちゃんと母ちゃんが揃っていたので、

カクカクシカジカ……。

と、先ほどの出来事を話しました。


『何ぃぃぃ？
　その痴漢、
　まだ近くにいるかもしれんなぁ！』


私の話を聞き終えるか終えんか、
怒り心頭の父ちゃんが、玄関に置いてあった木製バットを持って家を飛び出しました。(父は元ヤンです)


『いや、待って……。
　不良たちが助けてくれたから、
　オッサン、逃げたんだってばよ……』

(バットなんて、何に使うのデスカ？)


父ちゃんに続いて、玄関に置いてあった金属バットを持って家を飛び出す母ちゃん。



いやいやいやいや。




夫婦揃って、そんな物騒な物持って近所を徘徊したら、通報されマセンカ？


(この家、何で物騒な物ばかり置いてるの？)


皆さんも、夜道には気を付けましょう。