私の初連載は会社や担当者に対するほのかな不信感があったものの、読者からの反応など嬉しい部分もあり一概に嫌な仕事とは言えないものだった。
ただ、やはり会社に対して何度か思うことがあった。

漫画サービスがスタートしてしばらくの間、会社から作家に向けて連絡が来ていた。
その中には作品に関する注意喚起やアドバイスも含まれていた。
ある日のメールには

「作品全体がエロに頼りすぎている傾向がある。お色気で読者を釣ろうとするのは、安直すぎるのではないか?読者はそこまで単純ではないので、きちんと考えた内容で勝負するべきだ」

という注意が書かれていた。

私の作風にエロはないので関係がない事だが、なるほど確かに安直なお色気ネタばかり連発するのはいかがなものかと思った。
安易なエロで客寄せするのではなく、きちんと考え抜かれたネタで読者の心を掴んでほしい。
これは、私も納得できる真っ当な意見であった。
ここまでは、きちんと読者のニーズを考えて作家に正確な指示ができる会社だと感じていた。

ところがその連絡からどれくらい経った頃だったろうか。会社の方針が明らかに変わっていたのである。
子どもも読める平和な作品を中心にしていたのが、「大人向け」と題してあからさまなエロ作品ばかりを扱うようになった。
作品のサムネイルはほとんどが裸の男女が艶めかしく抱き合っているもの、露骨な巨乳や美少女のヌード。
タイトルも不倫、浮気といったレディコミめいたものが並び、トップページのほとんどがアダルト漫画によって占拠される状況となった。

あれほど会社側が「エロに頼るな、お色気ネタで読者を釣るな」と釘を刺していたのに、ここまで露骨な方向転換を図るとはさすがに開いた口がふさがらなかった。
結局会社側はしばらく漫画サービスの運営を続けた結果、よく練られたネタの面白いストーリーより安直なエロの方が儲けに繋がると判断したのだ。

ましてアダルト作品は未成年に見せられないので、必然的に課金制となる。
無料で全年齢に公開するより、課金してくれる大人にターゲットを絞った方が楽に稼げるのだろう。

どんな企業も儲け優先なので、この方向転換が間違いとは言えない。
しかし、一時期あんなに作家に対して説教をしていた会社が、あっさりエロで読者を釣る方向に舵を切るのは素直に支持できなかった。

作家にあれこれ意見を出すわりに会社の方針が定まらず、あっさり理念をコロコロと変える企業は信用ならない。
私がこの会社を信じられなくなる理由の一つが、これである。

11.運営に対する小さな不信感

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