ヒューーー  注)北風が吹く音です


『オワーーーーーッ!ヒギャーーー!』

イグアナのイグッチを無事自宅へ送り届けた翌日。

私、加納友美はベランダの手すりに巻きついている奴を発見し、驚いて後ずさりしながら睨み合い対峙しています。

(だから、私爬虫類苦手なんだってば・・しかもこんな夜遅く・・)

時間はもう10時を回っていました。そろそろ寝ようとして雨戸を閉めようと窓を開けた際に手すりに巻きついているヘビを発見しました。

『えっと・・・あなたは・・・』

私が話し掛けるとスルスルと手すりをつたい着地。
そしてグネグネと波打ちながら移動して私の部屋に入って来ました。

(うわー・・どう言う原理で動いてるんだろ・・正直キモイ・・・)

『どうやら話せるって噂は本当だったようだな・・・』

『え?どこでそれを・・』
(いや・・どうせ猫の集会を盗み聞きしたんだろう。て言うかそう言う事にしておこう)

『あ、ごめんごめん・・・あなた男?』

『なんの事だ?僕は僕だ。それ以上でもそれ以下でもない』

『・・・・・・・』
(なんか聞いたことあるな)

『えっと・・それより私になにか用ですか?』

ヘビはチロッと舌を二度三度出しています。

(怖いよ・・・)

『ごめん・・・その舌を出すのは止めて欲しいんだけど』

『どう言う事だ?』

『あーやっぱなんでもない・・』

そのヘビは相変わらず舌を二度三度チロチロ出したり引っ込めたりしています。

『あの・・とりあえずお話聞くので、あなたの事はヘビッチと呼んでもいい?』

『問題ないぞ』

『えっと・・・早速本題に入って欲しいんですけど・・もう夜遅いし・・』

私は昨日の二時間に渡る、チャリのマジ漕ぎをしたせいで筋肉痛になっていました。

『じゃあ、ヘビッチ。私になにか用なの?』

『そうか・・用件だな・・それより今宵は幻想的な月が出ていると思わないか?』

『は?』
(やっぱり・・・まためんどくさい奴だ・・・)
(こっちが聞いているのに的外れな返事を返す奴は、大抵ろくなもんじゃないよ・・)

『それにしてもあの月の果てはいずこにあるのだろうか・・・』

『・・・・・・』

(もう突っ込む気力がないよ・・ホントなんなの最近・・)

『あの・・・月が幻想的で神秘的なのはわかったから、用件を聞きたいんだけど・・』

『まあ、そんなに急ぐことはないだろう。今日と言う時間はたっぷり残されているじゃないか・・・良き出会いに乾杯だ』

『・・・・・・』

(今日と言う日はあと二時間しかないんだけど・・・24分の22はもう経過してるんですけど・・)
(て言うかあなた乾杯できないでしょ・・)

『わかったよ。めでたいね。夜はまだまだだね。乾杯』

『それでは余興もすんだ事だし早速本題に入ろうか』

『・・・・・・』

『実はな・・・おっと・・君の事はなんと呼べば良いのかな?お姫様』

『・・・・友美でいいよ』

『それでは友美君。実は最近運動不足気味でな』

『うん・・え?』

『あの箱の中は温かく快適なんだが、どうも体がなまってな』

『ヘビッチ飼い主いるの?』

『もちろんそうだが?』

『だよね・・・』
(そうだよね・・色も赤いし、意外と大きいもんね。いなくなったら騒ぎになる・・・え?)

『ちょっと待って!いなくなって飼い主さん心配してるんじゃないの』

『それが昨日はぐれてしまったんだ。車から勝手に降りた私もいけないんだが』

『・・・・・まさか家にも帰れないの?』

『ああ。でも私の飼い主はきっと幾千年の時を越えて必ず私を迎えに来るだろう。それほど悲観してはいないさガラガラガラ』

(・・・・ガラガラへびみたいにガラガラ笑うんじゃないわよ・・)

『家はまさかカレー屋さん?』

『カレー?ああ、あの香ばしい匂いを放っている食べ物の事か・・それなら毎日匂いをかいで、この世の儚さを噛み締めているぞ』

(カレー屋のガチムチ野郎・・・・ちゃんと管理しなさいよ)

『わかったよ・・とりあえず運動不足を解消してから家に送ればいいんだよね』

『まあそう言う事だな』

(また、あのカレー屋に行くの?・・・とりあえず運動不足は適当に明日どこかで遊ばせればいいか)

『それでは今日は友美君の家にお世話になるとするか』

『・・・・まあ仕方ないよね。じゃあ早速だけどもう寝ていい?私体中が痛くてさ』

『構わんさ。それでは今宵、友美君の良き夢のうつつの世界へいざなおう。グッツナイ』

『・・・・・』
(いちいちめんどくさいな。何がGOOD ナイトよ・・・)

パチ・・・私は電気を消しました。
(さあ、とりあえずさっさと寝よう)

『ちょっと!なんなの!ヘビッチ!』

ヘビッチは消灯直後いきなり私の布団に潜り込んできました。

『なにとはなんだい?友美君。夢のうつつの世界へ行くに決まってるじゃないか?』

『え?ベットで寝るの?』

『たまにはよかろう。飼い主とも3日に1回はこうして共に良き夢を見ているんだぞ』

『ちょっと私の話聞いてた?体中が痛いの!巻きついて寝られたら余計寝られないよ!』
(触手じゃないんだから)

『仕方ない・・・それでは机の上でいいか?』

『・・・・・それなら・・構わないけど』

こうして私とヘビッチの一夜限りのお泊り会は過ぎていきました。

(ヘビってもっとヌルヌル、ゴツゴツしてるかと思ったけど意外とスベスベで気持ち良かったな)

(ん?)
私はすでに眠っているヘビッチを見ると、漫画みたいにトグロを巻いていました。

(本当にトグロ巻くんだね。一応くつろいでるんだよね?)

(あ、何ヘビか調べなかった・・まあいいや明日にしよう。おやすみ)

ヘビ以上、人間未満?

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