●相談内容
 本題
最近飼い主さんが食事にフルーツを出してくれない。→ある程度解決済み
 副題
・・・・ついでに方向音痴で帰れないから送って欲しい。

本題と副題が入れ替わっている、変わった価値観をお持ちのイグアナ(性別不明)のイグッチ。
そして放し飼いにさせて頂いてると言いながら、帰れなくなっている迷惑極まりないイグッチ。
更にゆっくり過ぎてイラ付くイグッチ。

私はイグッチをバックに入れて、チャリで10分程の場所にある動物園に向かっています。

(とりあえず叔父さんならイグアナ飼ってる人知ってるよね?)

(はあ・・・はあ・・・こんなに遠かったっけ?)

急いでいる時こそ長く感じるものなんだなーとまだ呑気に考えていました。

やっと着きました。

『あっ、叔父さーーーん!』

『おや?友美ちゃん?そんなに汗だくでどうした?』

『イグアナ飼ってる家知ってるかな?って思って』

『イグアナ?』

『はい。迷子のイグアナ見つけまして』

私はバックの中のイグッチをこっそり見せました。

『うーーん・・・叔父さんが知る限りではいないと思うが・・』

『そうですか・・・』

『・・・いや、役所の近くのハンコ屋の娘が、確か爬虫類マニアだった気がする』

『ほんとですか?』

『ああ。なんでも専用部屋があるらしいって聞いた事がある』

(ああ良かった・・市役所は私の家から動物園とは反対方向だけど10分くらいあれば行ける)

(・・・・え?10分?・・て事は)

動物園→家 10分
家→市役所 10分
10+10=・・・・

(ここからだと20分?!)

(まあ仕方ない・・・とりあえずもうひとっ走りか・・めんどくさい・・)

私は再びチャリで市役所・・いやまずは家の方角へ向けて走り出しました。


『イグッチ大丈夫?ちょっと家よってなにか飲んでくるから待ってて』

『は・・・・い・・・・わ・・』

『あー返事はいいから』

私は冷蔵庫にあった牛乳をがぶ飲みして再び市役所へ向かいました。


(はあ・・はあ・・着いた・・て言うかイグッチよくこんな遠い所から来たな・・)

私はハンコ屋さんの前で一応イグッチに確認しました。

『ほら、ここじゃない?』

『・・・・わ・・・か・・・・り・・ま』

『ああいいよ。私が聞くから。とりあえず入るね』

ガラッ。

私はイグッチの返事に一抹の不安を感じながら、ハンコ屋に入店しました。

『すみません。こちらのイグアナが迷い込んだみたいなんですけど・・』

『あら、いらっしゃい・・・イグアナ?』

出て来たのは若い20歳くらいの女の人でした。

『こちらで爬虫類を沢山飼ってると聞いて、もしかしたらと思って・・・』

私はバックをポンポンと叩きこの中にいるとジェスチャーをしました。

『ありがとうね。ちょっと見せてもらえるかな』

『どうですか?』

『ウチの子じゃないわね』

『え?』

(ちょっと待って・・・まさか捜索活動振り出し?)

『その子もう1回見せて』

『あ、はい・・』

『首輪着いてるでしょ。ここに・・・』

そう言うとお姉さんは首輪を外し裏を見せてくれました。

『ほら、住所書いてある』

(やった!!良かったーー。一時は絶望したけどとりあえず一安心だね)

『ここから自転車で15分くらい先のカレー屋さんよ。たしか爬虫類仲間のコミュニティで書き込みしてたから間違いないと思うよ』

(え?カレー屋さん?まさか大きな橋の道路沿いの?・・しかも15分?)
(カレー屋さんならインドらしくベンガルトラでも飼ってればいいのに・・・なんでイグッチなのよ・・)

『そうですか・・・わかりました。とりあえず飼い主さん心配してると思うから行ってみます』

私は心にもない事をお姉さんに話して、再びチャリを漕ぎ出しました。

(はあ・・・はあ・・・)

家→動物園 10分
動物園(自宅経由)→ハンコ屋 20分
ハンコ屋→カレー屋 15分
カレー屋→家 25分

(1時間じゃん・・・なんなの一体・・なんで私がこんな目に・・・)
(しかも財布忘れた・・・水分補給も出来ないよ・・)

照りつける夕日がまるで槍の様に降り注ぎ、ズバズバと私の体を刺してる様な気がしました。

(着いた・・・)

ひょっこりとカバンから顔を出すイグッチ。

『こ・・・・こ・・・・・で・・・・・・す』

『それにしてもイグッチよくこんな所からウチまで来たね・・すごいよ。ああ、返事はいいからね』

(よし、じゃあピンポン押すか)

『あの・・・・・』

『なに?イグッチ?まさか違うの?』

『く・・・・び・・・・わ・・・と・・・・メ・・・・モ・・』

『え?首輪とメモ?・・・・』

(しまった・・・私一生の不覚・・・)

なんと首輪をハンコ屋に忘れてきてしまいました。

更に解決済みの本題【首輪にフルーツが食べたい】と書いたメモを貼り付ける・・・のメモも家に忘れて来ました。

(もういいよ・・とりあえず事情を放してイグッチを飼い主に返した後、後日取りに行ってもらおう)

ギブアップした私の目にカレー屋さんの自宅の庭先にいる、スキンヘッドの大男が目に入りました。

(うわ・・・怖そう・・この家のお父さんかな?)

『か・・・・い・・・ぬ・・・・し・・・さ・・・・ん・・・です』

(はい?あの人が?無理無理無理・・話しかけるのでさえ怖いのに、自分の不注意で忘れた首輪を取りに行けだなんて言えないよ・・・ん?)

私はイグッチの泣き声が聞こえました。

『く・・・・び・・・・わ・・・・・メ・・・・モ』

『・・・・・・』

(終わった・・・)
(イグアナのくせに泣くんじゃないよ・・)

『あーはいはい・・私が責任とればいいんでしょ?とりあえず泣くのはやめてね』

(メモとペンはそこのコンビニで買えばいい・・・・)

(財布忘れたんだった・・・・)

私は知らない間にスキル【ドジッ子友美さん。テヘッ(頭コツン)】を発動していた事に、ヒザと手を地面について絶望の姿で泣き崩れている自分を考えていました。

(ハンコ屋で借りれば・・・いや駄目だ・・・当然イグッチからフルーツを食べたいって聞いたなんて言えない・・て言うか貸して下さいって言うのもめんどくさい)


家→動物園 10分
動物園(自宅経由)→ハンコ屋 20分
ハンコ屋→カレー屋 15分(いまここ)

カレー屋→ハンコ屋 15分
ハンコ屋→家 10分
家→カレー屋 25分
帰り
カレー屋→家 25分

(もう何分だかわかんない・・・とにかく二時間・・しかもここから無事に終えてのんびりできるまであと何分よ・・・しかも門限19時・・・いま何時・・・ゲッ!あと1時間?)

そこからは無心でした。無論イグッチとの会話はありません。


私は今まで生きてて一番の速さでチャリを立ち漕ぎして(もちろん事故にも細心の注意をはらい)真っ白に燃え尽きながらイグッチを引き渡して帰ってきました。

時間は18時58分・・・

門限に一番うるさい兄の出迎えを受け無言で、そのまま風呂場へ行き少し早い入浴を済ませました。

もちろん着替えを用意しないまま入浴し、裸バスタオルで家を徘徊したのは言うまでもありません。

あとイグッチは、二日前ガチムチの飼い主さんと私の家の近くのペットショップへ来て逃げ出したそうです。
飼い主さんにはとても感謝されました。

(イグッチよくこんな遠い所まで来たね・・なんてバカな事を思ってた私・・・)

(明日はいい日になりますように・・・そう言えばフルーツ出してもらったかな・・)

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