デジタルフルカラーのサンプル漫画も無事提出し終わったので、後は審査結果を待つだけだ。
どれくらい時間がかかっただろう。一ヶ月は待たされた気がする。
長い審査期間の末、ついに先方から「是非連載をお願いします」との連絡が来た。

特に漫画家志望だったわけでも連載を持ちたかったわけでもないが、新しい仕事ができるのは素直に嬉しい。

いよいよ本格的に契約を結ぶので、先方のスタッフと顔を合わせ、直接打ち合わせをすることになった。
というわけで、私は待ち合わせ場所の駅前で先方スタッフの到着を待った。

待ち合わせ場所に来たのは男性のスタッフだった。

「あの、山田マヤさんですか?」

「はい、そうです」

男性は気さくな雰囲気で話しかけてきた。

「ええ!山田さん、なんか漫画のイメージと違いますね!なんか……美人ですねw」

それはなんてことのない、ただのセールストークであろう。

「もっと垢抜けないというか……なんというか野暮ったい、オタクみたいな人をイメージしていましたよw」

「そ、そうですか……」

それは私の作風がいかにもオタクっぽい、垢抜けない人間らしいという意味だろうか。

「会社に帰ったら他の社員に山田さんが綺麗な人だったって話しておきますよ~w」

男性は本気で悪気のない、そこらの大学生が雑談しているようなノリで話し続けた。
もしかすると初対面の私が緊張しないように、気を使ってこういう話をしたのかもしれない。
しかし私は妙なモヤモヤを抱いてしまった。

相手の褒め言葉がお世辞であったとしても、初対面の相手に向かっていきなりルックス批評の話題をするだろうか?
相手からすると「褒めているのだから言っても問題ないだろう」という意識かもしれない。
当たり前だが、「思っていたよりブスですね!」なんてことは、まともな人であれば言うはずがないし……。

日本ではそうでもないが、国によっては「相手の容姿に関する話題は褒め言葉であってもNG」と聞いたことがある。
例えば綺麗ですね、スタイルがいいですね、鼻が高いですね……等は、本人が褒めているつもりであっても相手には失礼にあたるのだ。

こんな時に海外では~、と意識高い系のような話をするのも変だが、私はどちらかというと漫画のネタ、中身を批評して欲しかった。
漫画は顔で描くのではないのだから。

とはいえ会っていきなりだし、まず顔に目が行ってしまうのは仕方がない。
むしろこんな小さなことを気にしている私の方が、いちいち細かすぎるのかもしれない。
先ほど感じた小さなモヤモヤは忘れて、私は男性スタッフと打ち合わせ場所へ向かった。

04.審査の結果と初の打ち合わせ

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