「審査……ということは、すぐに契約が結べるわけではないのですか?」
「はい!作品が連載に値するクオリティかチェックして、合格した人のみ連載となります!」
正直この時点で少し引っ掛かった。
そもそも先方が私の漫画を見て声をかけてきたのだから、どのような漫画を描くのかは十分に理解しているはずだ。
しかし、今から審査用に新しい作品を描かなければならないらしい。
「山田さんの作品はモノクロですよね。でも、弊社はフルカラーが条件なのです。ですので、きちんとカラー原稿が描けるかを審査しなければならないのです。というわけで、フルカラーのサンプルを頂けますか?」
「はい……。わかりました。4ページ程度でいいんですよね?」
「はい!塗りを見るだけなので、4ページもあれば問題ありません!」
こうして私は、既存のモノクロ漫画に着色し、フルカラー漫画を4ページほど仕上げた。
先方も短くて構わないとのことなので、まあ大丈夫だろう。
ところが先方からの返事はこうだった。
「すみません。審査を始めたのですが、他の社員が『この短さではわからない』とのことでした。もっとページ数を増やして描いて貰ってもいいですか?」
「え……。わからない……ですか」
先方の審査はあくまでもフルカラーで描けるかとのことだったので、ストーリーや構成もチェックするとは聞いていない。
どのようなカラー原稿を描く作家なのかは、4ページ漫画どころか一枚絵でも十分わかると思うが……。
「ちなみに他の人は、一話丸々描いた人もいます」
「い……一話ですか……」
もちろん今から一話分のフルカラー漫画を描いたとしても、審査なので報酬は出ない。
この時点で少し面倒だな、と感じていた。しかし
「お願いします!個人的にどうしても山田さんには連載して頂きたいのです!他の審査スタッフにも山田さんの魅力が伝わるような原稿があれば、きっといいお返事ができると思いますので!」
と、熱心に頼み込まれてしまった。
そこまで言われると、こちらとしても断る気になれない。
「は、はい…。わかりました。では、もう少し長いフルカラー漫画を送りますね」
こうして私は、審査のためにフルカラー漫画を丸々一話分仕上げた。
元々趣味で描いていた作品は10ページ程度のショート作品だ。
全ページに着色しても、さほど大変な作業ではない。
私はフルカラー漫画のデータを送り、審査の結果を待つのであった。