かなり疑わしく思ったけど、俺は素直に礼を言っておいた。


サンキュー。じゃあ、ひとまずマルイに行ってみる。場所なら俺も知ってるし……これで、RPGのヒントゲームみたいな行程に、成果が上がるといいけどなあ

 最後は愚痴のようになり、そのまま財布を出そうとしたのだが、そこで涼がポツンと言った。

君が心をガードする寸前に、もう一つだけキーワードが聞こえたと言ったよね

それが?

 用心して問うと、涼はデスクの上に両肘をつき、掌の上に顎を乗せて俺を見た。

……いや、そのキーワードが少し気になったんだ。怒らないでほしいけど、『破壊』っていう言葉が浮かんだ。これは君の捜し物じゃなくて、君自身に関わることだと思うけど

それも当たってるよ、多分

 俺は席を立ち、千円札を一枚財布から出すと、デスクの上に置く。

自分で言うのもなんだけど、俺って多分、心が壊れてる気がするんだ。一応、学校や外では、普通人のように装ってるけどね

それは……さっき僕が口にした、複数のキャラに関係ある?

いや、どっちかというとクロオってヤツが関わった事件の方。もう六年前の話だけどねー

 平和な顔をつくって言うと、俺はさりげなく部屋を出ようとする。
 ところが、しつこい涼がまた呼び止めた。

待って、ヒロ君

なに? また遊びに来いっていうなら、そのつもりだけど

 ――こいつを放置するのも、ヤバい気がするからなあ。

やあ、それは嬉しいなあ

 涼は満面の笑みを浮かべ、何度も頷く。

うん、それも頼もうと思ったけど。そうじゃなくて、なんとなく君に訊けばわかりそうな予感がしたんだ

なにをさ?

君は自分の能力のことを、多分ギフトって呼んでるんだろうけど……ギフトって、贈り物とか才能って意味もあるよね。実は僕、昔から不思議に思うことがあるんだよ。どうして人には、生まれついての才能なんてものがあるんだろう? しかも、なぜ人によって、その才能に差があるんだろうって

どういう……ことかな?

 俺は平静な声を出すのに、だいぶ苦労した。
 こっちの事情を全く知らずに、こいつが今の質問をしたのだとすれば、あまりに不気味すぎるぞ。

いや、言葉通りの意味。例えば、イラストとかさ? 小学生くらいで、もうプロ並みの絵を描く人がいるよね? スタートは同じなのに、なんで差があるんだろうかってさ、よく思うんだよ。スタートが同じなら、上達するスピードも同じはずじゃないかい?

さらに例えると、最初から強い戦士とかか?

 俺は堂々とカマをかける。

ロクに訓練もしないのに、いきなり強いヤツって、たまに出てくるよな? 物語はもちろん、リアルでもちゃんといる。例えば、空手の道場通ったら、最初から要領よくコツを掴むヤツっているよな――みたいなこと?

そうそう、そういうこと!!

 通じたのが嬉しいのか、涼は俺を指差した。

それって、なぜ? どうして最初から同じ才能にならないの?

そういう質問を、どうして俺に――よりによって、見た目はふつぅうううの高校生であるところの、この俺にするのかな?

さあ?

 自分でも首をひねり、涼は真剣に悩む表情を見せた。

なぜか、君なら教えてくれそうな気がしたんだ。時々あるんだよ、僕にはそういう勘が働くことが

おまえの言う勘や、この便利な能力って……実は発現したの、まだ最近の話じゃないか?

 俺がニヤッと笑って言うと、見事に涼の表情が消えた。

ああ、やっぱり……なんとなくそう思ったんだよ、俺も

 なんとなくの部分に力を込めて口にすると、涼は苦労して苦笑らしきものを浮かべた。

いやぁ……人に逆に驚かされたのって、久しぶりかも

一方的な関係はいつか破綻する。お互いがお互いを脅かしたってことで、おあいこだろ

 
 涼との腹の探り合いはある意味で楽しいけど、今は無念のまま死んだ脇坂の件が先だからな。
 

「気をつけろよ、涼。深淵を覗き込む時は、向こうもこっちを見てるって、イッちゃった哲学者様も仰ってるぞ?」
 

明るく手を振って馬鹿なことを言うと、俺は今度こそ部屋を出た。

第二章④深淵を覗き込む時は

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