さて、じゃあ少しは期待して調べるか?

 目的地のマルイで、俺は何となく建物を見上げた。
 中野駅の南口からほど近い場所に、お洒落なマルイのビルが建っている。

 六階建てで、地下に食料品店はあるが、メインはファッション系の店舗だろう。実際、あんまり年配の人はこんな場所に買い物に来ないかもしれない……もちろん、俺がそう思うだけだけど。

 問題は、このお洒落なマルイのどこで、何を調べればいいのか――という点だ。

 そもそも俺は、涼には詳しいことを一切説明しなかった。
 よって、脇坂に関する謎自殺のヒントを、涼がちゃんとくれたとは限らない。あくまでも連想キーワードで口走っただけだしな。

だいたい、マルイの中じゃなくて、この前だったらどうするって話だよな?

 俺は、マルイの前でほけっと車道を眺める。中央線の沿線ということもあり、車の通行量はやたら多い……もちろん、歩道の人通りも。

 しばらく考えたが、しかし俺は結局、肩をすくめてマルイの中へ入った。 

 馬鹿みたいにここで立ってるより、まだ中を調べた方がマシだ。


 最上階から下へ下へと降りる方法でうろつき始めたものの……六階から、五階のレストラン街に下りる頃には、俺は早くもやる気が失せ始めていた。

学校をサボってまで、何をしているのかって話だよ

 昼時ということで、食事に訪れた見知らぬ人達の中で、俺は一人で呟く。
 こんなことなら、家でルイの相手をしてやった方が、お互い幸せだったのか。

 しかし、そんなことを考えつつも俺の足は自然と階段を降り、次の四階へと移動している。やはり、気になるのだ。放置はできないし、したくない。

 そして――少なくともアホらしいからと投げ出さずに正解だった。
 四階にある無印良品のフロアをうろついている時、いきなり何かがポケットの中で何か震えた。

――! うわっ


 不意を突かれて、俺は飛び上がりそうになった。

 思わずポケットを押さえると、どうも震えているのは脇坂のブレスレットらしいとわかった。あの病院で、脇坂が俺に押しつけたヤツだ。

 家を出る時にポケットに突っ込んで来ていたのだが、全然意識していなかった。

連想キーワードで、そういや俺、ブレスレットって言ったよな……これがその結果か

 恐る恐るブレスレットを取り出した俺は、少し考え、思い切ってそれをちゃんと腕に装着してみた。

 下手すると脇坂の二の舞になる気がして今までは避けていたのだが……今はなんとなく、そうした方がいい気がしたのだ。

 案の定、きちんと右手首にすると、微かにブレスレットが震えるているのがはっきりわかる。

プレステのコントローラーでバイブレーション機能があるが、あれと似ている気がする。まあ、あそこまで派手に震えないけど。

……待てよ。なんかこの振動、どんどん強くなってるぞ

 家具売り場のそばに立ち止まり、俺は眉根を寄せた。

 さっきまでは『ブル……ブルッ……ブルッ……』て感じで、間隔が開いていたのに、今はひっきりなしに震えている感じだ。ブルブルブルッ、みたいな。

あ、アレだな? 映画エイリアンの二作目で、動体センサーに、ゲチョグロのエイリアンの集団が探知された時の感じ?

 わかりにくい例えを独白すると、いきなり背後で声がした。

警戒されるから、立ち止まるのはよしなさい

おっとぉ!

 俺はかろうじて声を抑え、そっと振り向いた。

 予想に反して、立っていたのはアダルトな雰囲気漂う、大人びた少女だった……いや、少女に見えるだけかもしれないけど。

 彼女はぎろっと俺を睨み、諭すように言う。

接近すれば震えるのはわかっているでしょう? 今更ブレスレットに手を当てて、何を口を開けているの?

 ……いきなり口が悪いな、おい。

 しかし、これは待望のヒント襲来か。ここから先は、用心しないとな。
 どうやら、演技力が要求されるところらしいぞ?

 俺は気を引き締め、わざとらしく笑顔を浮かべた。
 

第二章⑤ブレスレットの機能……か?

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